離職率が高い飲食業界で「退職者ゼロ」の奇跡。牛の飼育から世界へ挑む、2代目社長の覚悟とは
- nagano
- 1月17日
- 読了時間: 7分

はじめに
こんにちは、元プロボクサーの長野憲次です。
今回お届けする「戦う経営者図鑑」のゲストは、株式会社ハンク・ディーシーの代表取締役、**朽木敬之(くちき たかゆき)**さんです。
飲食業界といえば、人材の入れ替わりが激しいのが定説。 しかし、朽木さんの会社では今年、**社員の離職者が「ゼロ」**という驚異的な記録を更新中です。
その組織作りの裏側には、若き日の葛藤と、現場で泥臭く掴み取った「リーダーの鉄則」がありました。
さらに、自社で牧場経営まで行う「6次産業化」への挑戦。 宮崎から世界へ、「日本の食文化」を届けようとする熱いビジョンに迫ります。
■ バスケ未経験でバスケの会社を起業? 型破りな学生時代
長野: 朽木さんの経歴を拝見して驚いたのが、学生時代に起業されたエピソードです。今の飲食業とは全く違う分野だったそうですね。
朽木さん: そうなんです。大学生の時にバスケのイベント会社を作りました。 当時流行っていた「3on3」のコートを商業施設に作って、DJやMCを入れてエンタメ化する事業です。
でも実は僕、バスケ未経験なんですよ(笑)。
長野: えっ、未経験ですか!?(笑) それはどういう経緯で?
朽木さん: 学生時代に某大手スポーツ関連会社が協賛するストリートボールチームのマネージャーを頼まれたのがきっかけです。そこでの活動が面白くて、「会社にしちゃおう」と。 当時は仲間と勢いでやっていましたが、ビジネスとして何かを仕掛ける面白さに夢中でしたね。
長野: 自分がプレイヤーじゃなくても、プロデュースする側に回る。その柔軟な発想と行動力は、今の経営にも繋がっている気がします。 そこからお父様が経営する今の会社に入られたきっかけは何だったんですか?
**朽木さん: **父が事業を一気に拡大するタイミングで「人手が足りないから手伝え」と。 最初は「まあ、しゃあないな」という軽い気持ちでの入社でした。 でも、そこからが地獄の始まりでしたね(笑)。
■ 「社長の息子」というレッテル。古参社員との衝突と挫折
長野: いきなりお父様の会社の本部に入られて、社内の雰囲気はどうだったんですか?
朽木さん: 最初はバチバチでしたよ。幹部社員は僕が小学生の頃から知っているようなベテランばかり。 「社長のボンボンが急に入ってきて、偉そうなこと言ってるな」という空気で、会議で「わかりました」と言われても現場は全く動いてくれない。
そんな状態が2〜3年続きました。
長野: それはキツいですね…。どうやってその状況を打破したんですか?
朽木さん: 転機は会社の業績が悪化した時です。 不採算店を閉め、社員も辞めていく中で、僕自身が店長として現場に入らざるを得なくなりました。
そこで初めて、現場の大変さと「役職だけじゃ人は動かない」という現実を痛感したんです。
長野: ボクシングもそうですが、リングの上では肩書きなんて関係ない。実力を見せないと誰も認めてくれませんよね。
朽木さん: まさにおっしゃる通りです。 「どうすれば店が良くなるか」を自ら汗をかいてやって見せる。結果が出始めると、少しずつスタッフが信頼してくれるようになりました。
「言うことを聞かせよう」とするのではなく、**「背中で見せる」**ことの大切さを学びましたね。
■ 「辞めてもいい」と言ったら、誰も辞めなくなった
長野: 現在、社員さんの定着率がものすごいと聞きました。
朽木さん: 実は今年、社員が一人も辞めていないんです。飲食業界では珍しいことだと思います。
長野: それはすごい! 何か特別な引き止め策などをされているんですか?
朽木さん: 逆です。**「辞めたかったら辞めていいよ」**というスタンスに変えたんです。 昔は「辞めるな、お前のためだ」と引き止めていましたが、それは会社のエゴだと気づきました。 その人の幸せが別の場所にあるなら、それを応援すべきだと。
長野: なるほど。囲い込むのをやめたんですね。
朽木さん: 「出世したい人は手を挙げて。今のままで満足な人はそのままでいい」。 それぞれの幸せを尊重するようにしたら、逆にみんな辞めなくなったんです。居心地が良いと感じてくれているのかもしれません。
長野: 「素直さ」や「優しさ」を採用基準にされているとも仰っていましたね。
朽木さん: はい。不器用でもいいから、「こいついい奴だな」と思える人と働きたい。 口だけで上手く立ち回る人より、泥臭くても素直な人の方が、長期的にはお客様にも愛されますから。
■ 牛の飼育から世界へ。10年越しの「6次産業化」ビジョン

長野: 今後のビジョンとして掲げている「6次産業化」について教えてください。
朽木さん: 10年前に掲げた目標で、1次産業(畜産)× 2次産業(加工)× 3次産業(飲食)をすべて自社でやるというものです。 3年前から実際に牛を飼い始め、現在は約130頭を飼育しています。
自分たちの牧場で育てた牛を、自分たちの工場で加工し、お店で提供する。ようやくこのサイクルが形になってきました。
長野: 飲食店が牧場経営まで遡るのは本当に稀有な例ですよね。
朽木さん: ここからは、このモデルを引っ提げて店舗展開を進めます。目標は直営30店舗、FC20店舗。そして海外展開です。
単に肉を売るのではなく、「和牛という素晴らしい食材」と、お箸と茶碗で食べる「日本のハンバーグ文化」をセットで世界に届けたいんです。
長野: 宮崎の地から世界へ。生産から提供まで一気通貫で行う御社だからこそ語れるストーリーですね。
【編集部解説】明日から役立つ!朽木社長に学ぶ「組織とキャリア」の極意
インタビューを通じて見えてきた、明日からの仕事や経営に活かせるヒントを、編集部が3つのポイントでまとめました。
1. 経営者・リーダーの方へ:「手放す覚悟」が組織を強くする 離職率が高い業界で「離職ゼロ」を達成した最大の要因は、**「従業員のハッピーを会社が勝手に決めない」**という逆転の発想でした。
囲い込みをやめる: 「辞めないでくれ」ではなく「それぞれの幸せを応援する」。このスタンスが心理的安全性と帰属意識を生みます。現場主義の徹底: 役職で人を動かそうとせず、苦しい時こそリーダーが現場で汗をかく。信頼構築の近道はありません。
2. これから社会に出る方へ:「器用貧乏」より「泥臭い素直さ」 就職活動では「自分を良く見せよう」としがちですが、朽木社長が採用で最も重視しているのはスキルよりも**「素直さ」と「優しさ」**です。
評価されるのは「いい奴」: 口先だけで器用に立ち回る人よりも、不器用でも泥臭く頑張れる人の方が、長期的には信頼され、お客様もついてきます。まずやってみる精神: 未経験でも飛び込む行動力がキャリアを切り拓きます。自分の弱さを隠さず、素直に学べる人こそが、これからの時代に求められる人材です。
3. ビジネスモデルの学び:「6次産業化」で独自の物語を作る ただ商品を売るだけでは価格競争に巻き込まれますが、ハンク・ディーシー社はビジネスに深いストーリーを持たせています。
一気通貫の強み: 生産から提供まで自社で行うことで、他社が真似できない品質と物語が生まれます。文化を売る: 単に肉を輸出するのではなく、「お箸と茶碗で食べる体験」ごと海外へ持っていく。自社商品を「モノ」ではなく「文化・体験」として再定義できるかどうかが、ブランディングの鍵です。
編集後記
インタビューを通じて印象的だったのは、朽木社長の「人に対する温かい眼差し」でした。
無理に型にはめず、その人の幸せを尊重する。その結果が「離職率ゼロ」という驚異的な数字に表れています。
また、朽木さんが求める「素直で泥臭く頑張れる人」というのは、まさに私たちアスリートがセカンドキャリアで発揮できる強みでもあります。
「自分たちの育てた牛で、世界に挑む」。 そんな熱いビジョンを持つ企業で働くことは、若者にとっても大きな挑戦の場になるはずです。
朽木さん、貴重なお話をありがとうございました!
(取材・文:長野 憲次 / 株式会社アスリート式)



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