剣道家社長が語る、"勝てる人材"と"負ける人材"の決定的な差リズム食品・岡本慶大氏
- nagano
- 1月28日
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今回対談させていただいたのは、リズム食品株式会社の代表取締役社長、岡本慶大さん。
現代の経営者が「効率」や「スマートさ」を競う中で、岡本さんは全く別の場所を見据えています。
泥臭く、熱く、そして何よりも「人間臭い」。
北九州の地で、理不尽なまでの剣道の稽古に耐え、ブラック企業並みの激務を乗り越え、そして今は「強いチーム」を武器に戦う。
そんな岡本さんが作り上げた独自の組織論と、合理性だけでは説明がつかない「強いチーム」の秘密に迫ります。
今の日本人が置き忘れてきた「熱狂」が、ここにはありました。
4時間の素振りと、120人の中の孤独
長: 岡本さん、今日はよろしくお願いします。 岡本さんの経営哲学の根底には「武道の精神」があるとお伺いしました。剣道はいつから始められたんですか?
岡: きっかけは中学1年の時ですね。
ある日突然、学校から帰ったら母から電話があって、今から近所の小学校に来なさいと。 行ったら竹刀を渡されて「あんた今日から剣道やりなさい」ですよ(笑)。
父の指示だったんですけど、当時は「嘘やろ!?」と思いましたね。
長: 有無を言わさず、ですね(笑)。最初から楽しかったですか?
岡: いやいや、地獄でしたよ。
当時その道場は120人くらい生徒がいる人気道場で、初心者の僕なんか相手にしてもらえない。 稽古は夕方5時から9時までの4時間なんですけど、先生の手が回らないから「お前、あそこで素振りしとけ」って放置されるんです。
半年間、来る日も来る日も4時間ぶっ続けで素振りですよ。
長: 4時間素振りだけ……それはキツい。究極の単純作業ですね。
岡: そうそう。急に筋肉がつきすぎて、腕のリンパが腫れてパンパンになったりしましたから。 面白くないし、何度もサボりたくなりましたよ。
でも半年経ってようやく防具をつけさせてもらったら、今度は小学生にボコボコに打たれるんです。 素人だから勝てないのは当たり前なんですけど、悔しいじゃないですか。
長: そこからどうやって這い上がったんですか? 技術ですか?
岡: いや、心ですね。
どうしても勝ちたくて、『五輪書』や『武士道』といった本を読み漁ったんです。 そこで学んだのが、「剣道は精神だ」ということ。
剣道の試合って、2分とか3分、長くても5分。 その一瞬の中で気が抜けた瞬間に負けるんです。負ける時は必ず自分に理由がある。
剣道の世界では、 「相手に勝つんじゃなくて、己に勝て」 とよく言われるんです。
サボりたい、キツい、怖い。 そういう自分の弱さに勝って、平常心を保てた時だけ、力量が上の相手とも渡り合える。
長: 自分に勝つ。ビジネスでもスポーツでも、一番難しいことですよね。
岡: そうなんです。 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という言葉がありますが、濁流の川を渡る時に、怖がって躊躇してたら流されるだけ。 覚悟を決めて飛び込むしかない。
この「逃げたらやられる、覚悟を決めて前に出る」という精神は、後の経営人生ですごく役立ちましたね。
ブラックな働き方が教えてくれた密度の濃さと脱力
長: その後、大学を経て家業であるリズム食品に入社されるわけですが、そこでも剣道精神は生きましたか?
岡: 26歳で入社したんですが、僕は社長の息子、3代目のボンボンとして見られるわけです。 実力で勝てるわけがない。
だから「誰よりも長く働くことだけは負けないようにしよう」と決めました。
朝8時に出社して、帰るのは夜中の1時、2時。 それを3年間続けました。
長: 今の時代だと完全にアウトな働き方ですね(笑)。でも、当時の岡本さんにはそれが必要だった。
岡: そう、当時はね(笑)。あんなのは超ブラックでしたよ。 でも、だからこそ得たものもあるんです。
当時は心も体もガチガチになって、「俺は失敗できん」って力が入りまくっていたんですが、ある日、朝礼である社員が面白い話をした時に、思わずクスっと笑ってしまって、肩の力がフッと抜けたんです。
自然体が一番強いんだと気づいた瞬間でした。
長: 極限まで追い込んだからこそ、脱力の重要性に気づけたわけですね。
岡: そうです。剣道も同じように脱力が大切ですが、その経験が完全にリンクした瞬間でした。
もちろん、今の社員に同じ働き方を強要するつもりは毛頭ありません。 今は法律も時代も違いますから。
ただ、今の若い子たちを見ると、労働時間が守られている分、経験の密度が薄くなっているとも感じるんです。
長: なるほど。時間は短くても、その中での熱量はどうなんだ、と。
岡: 昔の僕らは1年で身につけたことを、今の子は3年かかるかもしれない。
労働時間の短さを言い訳にして「成長しなくていい」と思ってほしくないんです。 環境がホワイトになった分、自分自身で濃い時間を作ろうとするハングリーさがないと、いつまで経っても強くはなれないですよ。
合理性だけでは人は動かない。泥臭い「人間力」の磨き方
長: 組織づくりにおいても、そうした「心の強さ」や「つながり」を重視されているそうですね。
岡: そうですね。うちは「NHKK研修」という独自のプログラムをやっていまして。 これ、技術を教えるというよりは、「仲間との絆」を確認する場なんです。
検定試験があるんですが、それを評価するのは講師じゃなくて、一緒に受けている仲間たちなんです。 「今の挨拶は心がこもっていたか?」「合格でいいか?」を仲間同士で判定し合う。
長: 上司ではなく、仲間が評価するんですか。それはごまかしが効かないですね。
岡: そうなんです。 だから、苦手な子が詰まってしまった時、周りの仲間はどう動くか? ただ見ているだけなのか、それとも「頑張れ!」と声をかけて支えるのか。
そこで必死に応援して、その子が壁を乗り越えた時、本人も周りも感極まって涙を流すこともあるんです。
長: 大人になってから、そこまで感情をさらけ出して仲間と向き合う機会はなかなかないです。
岡: 現場に戻れば、日々の業務に追われてその熱は冷めるかもしれません。 でも、「あの時、本気で仲間と支え合った」という原体験は、心の奥底に残るんです。
マニュアルだけじゃ人は動かない。 最後はこういう泥臭い「人間力」や「絆」が、苦しい時に組織を支えてくれると信じています。
「日本人は甘い」にあえて込めた、覚醒への期待
長: 最後に、人材についてお聞きします。 岡本さんは外国人スタッフの採用にも積極的ですが、率直に日本人スタッフとの違いをどう感じていますか?
岡: 正直に言いますけど、今の日本人の若者は「甘い」と感じることが多いです。 一方で、うちで働いている外国人スタッフ、特に特定技能で来ている子たちは本当に凄い。
長: 耳が痛い話ですが……具体的にどのあたりに違いを感じますか?
岡: ハングリー精神と覚悟ですね。 外国人スタッフは、家族を養うため、人生を変えるために海を渡って来ている。
彼らは文句ひとつ言わず、現場で圧倒的な努力をして、あっという間に周囲からの信頼を勝ち取っていきます。
長: 日本人のスタッフは、それを見てどうなるんですか?
岡: 最初は愕然とするんですよ。 「自分たちの方が上だ」と思ってたのに、現場では外国人スタッフの方が「ぜひうちの店にほしい」と引っ張りだこになるわけですから。
でも、そこからなんです。
「負けてたまるか」って目が覚めた日本人の同期たちが、そこから猛烈に成長して、数年後には立派な店長になったりするんです。
長: なるほど! 外国人スタッフという黒船が、日本人のポテンシャルを引き出すきっかけになっているんですね。
岡: そう。だから僕は日本人に絶望しているわけじゃない。むしろ期待しているんです。
最近面接した23歳の子が、久しぶりに「僕、ここで一番になりたいんです」と言ってくれて、すごく嬉しかったですね。
長: 一番になりたい、負けたくない。 そんなシンプルな闘争心を持った若者が一人でも出てくれば、組織は変わるということですね。
岡: そうです。 うちはそういう人間には、国籍関係なくチャンスを与える会社でありたい。
泥臭くてもいいから、「勝ち」にこだわる面白い人と仕事がしたいですね。
編集後記
「日本人は甘い」
岡本さんのこの言葉は、決して諦めや拒絶ではない。
かつて師匠に4時間の素振りを命じられた時のように、「お前ならもっとできるはずだ」という、厳しくも温かい叱咤激励なのだと感じた。
NHKK研修で大人が涙を流すのも、そこに理屈を超えた本気のぶつかり合いがあるからだ。 効率化された現代社会で、私たちが失ってしまった「熱」を取り戻す場所。
群れるイワシで終わるか、大海を泳ぐマグロになるか。
岡本さんは、あなたの覚醒を待っています。
(インタビュー:長野憲次)
プロフィール
ゲスト:岡本 慶大(おかもと けいた) リズム食品株式会社 代表取締役社長。 大学浪人時代にオーストラリアへ留学し生物学を志すが、家業を継ぐためビジネスの道へ。帰国後、リズム食品へ入社。猛烈な働きぶりで現場を統率し、社長就任。剣道で培った「平常心」「己に克つ」精神を経営の根幹に据える。



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