時速200kmの世界から、ゴキブリ駆除の日本一へ。「5K仕事を誇り高い仕事に変える」元レーサー社長の挑戦
- 3 日前
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「ゴキブリ駆除」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。 汚い、臭い、誰でもできる仕事。
そんな世間の偏見に対し、
「これほど誇り高く、かっこいい仕事はない」
と断言する男がいる。
株式会社クリーンライフ代表、大野 宗(おおの そう)氏
かつては鈴鹿サーキットで死と隣り合わせのレースに挑み、今は「完全駆除」という業界のタブーに挑む。 利益至上主義を否定し、社員の幸せと「心のあり方(マインド)」を何より大切にする彼の経営哲学に、元プロボクサーの長野憲次が迫った。
坐骨神経痛と鈴鹿の130R

【長野】 大野さんは最近まで現役のレーサーとして走られていたと伺いました。なぜ引退されたのですか。
【大野】 年齢もありますが、坐骨神経痛が出てしまいまして。フォーミュラカーの乗車姿勢でクラッチを踏み込む動作が、神経によくなかったようです。 中途半端に続けるのは嫌だったので、マシンも売ってスパッと辞めました。
ただ一つ心残りなのが、昨年の鈴鹿サーキットでのMEC120耐久レースです。給油を減らす作戦がうまくハマりトップでチェッカーを受けて、表彰台の一番高いところに立ち、メダルを授与されシャンパンファイトをしたんですが、後にピットストップのタイムが規定よりも短かかったということで、幻に終わってしまったことです。
【長野】 それは悔しいですね。時速200kmの世界というのは、我々には想像もつきません。
【大野】 鈴鹿の「130R」というコーナーは、時速200kmで突っ込んでいくんです。
去年の最終戦では、先行するマシンにストレートで追いつき、2台並んで130Rに飛び込みました。「こいつは信用できる!」と思って、コーナーのインを刺したんですが、アウト側のマシンとの間隔は数センチ、一歩間違えば大クラッシュです。
でも、あの極限のヒリヒリする感覚と達成感は、何物にも代えがたいですね。
缶詰用の桃を売り捌いた過去
【長野】 その勝負度胸は、昔からだったんですか。
【大野】 20歳の頃、レーサーになりたくて資金稼ぎのために「桃売り」をしていました。山梨からトラックで桃を運んで、大阪の路上で売るんです。これが儲かって、1日で15万から20万円売り上げました。当時の初任給が12万7000円の時代に、粗利だけで1日4、5万円稼いでいましたから。
【長野】 すごい商才ですね。
【大野】 でも実は、仕入れていたのは「大久保」という缶詰加工用の品種で、全然甘くないんです(笑)。それをいかにお客さんに買ってもらうか、口八丁手八丁で工夫しました。
ただ、勝手に露店を出すものですから、地元の怖い人たちが来るわけです。「誰に断って店出しとんじゃ」と組長さんに「ここで商売するならショバ代を払え!」と凄まれました。
【長野】 絶体絶命じゃないですか。
【大野】 そこで僕はとっさに嘘をついたんです。「いや、僕は雇われのバイトで、日当4000円なんです」って。 そうしたら組長が「そんなら1500円でええわ」と言ってくれて。「ラッキー、安いもんだ」と胸を撫でおろしました。
今の日本では考えられない話ですが、当時はこのような露天商が普通にあちこちにあったんですよ。
「ゴキブリが落ちてくる喫茶店」から「銀座の奇跡」へ
【長野】 そこからなぜ、ゴキブリ駆除の道へ進まれたのですか。
【大野】 35歳で脱サラを考えた時、昔バイトしていた喫茶店を思い出したんです。ピラフを作ろうと中華鍋にラードを溶かしたら、天井からゴキブリがボトッと落ちてくるような店でした。「これをゼロにできたらすごいな」と思っていた時、ある本で飲食店の厨房に特殊なクリームをつけて駆除する方法を知り、東京の業者へ話を聞きに行きました。
衝撃を受けたのは、業者の部長から銀座の某デパートに連れていっていただいた時です。 夜10時の閉店後、その部長を見つけた飲食フロアの店長たちが走ってきて、その部長さんに深々とお辞儀をしたんです。
「本当におかげさまでいなくなりました。ありがとうございます!」
その姿を見て、「これは人助けだ。世の中の役に立つ仕事だ」と確信し、大阪で起業しました。
「ゴキブリを残せ」という大手企業の矛盾
【長野】 起業にあたり、大手駆除業者のフランチャイズへの加盟などは考えなかったのですか。
【大野】 考えました。ある大手駆除業者の面接で、僕はこう熱弁したんです。 「飲食店専門で、年間保証をつけて、ゴキブリを完全にゼロにする仕事をしたい」と。
すると、担当の部長にこう言われました。
「お前アホか。あんなもん残しとかないと、仕事なくなるやろ」
【長野】 えっ、あえて残すということですか。
【大野】 はい。その部長からは事実そう言われました。ただ、業界全体が「わざと残している」わけではなく、構造上の問題もあるんです。
【長野】 構造上の問題、といいますと? 一般的に毎月訪問する業者さんが多いと思うのですが、あのやり方だと完全駆除は難しいのでしょうか。
【大野】 そうなんです。毎月訪問するスタイルの場合、1回の作業に何時間もかけることはできません。どうしても15分〜30分程度で終わらせる「点検」や「管理」がメインになってしまいます。
毎月顔を出すことで安心感を与えることはできますが、お店の隅から隅まで巣を探し出して叩く「完全駆除」を行うには、どうしても時間が足りない。結果として、生かさず殺さずの状態が続いてしまうことが多いんです。
僕はそれが許せなかった。「駆除しているからいない」状態を作るのがプロです。だからその場で加盟を辞め、独自で「完全駆除」の道を歩むことにしました。
【長野】 信念を貫いたんですね。
【大野】 そうですね。でも一時期、売れるものは何でも売りに行くという方針で、エアコン洗浄や庭の剪定まで手広く事業を広げていこうとしたこともありました。
でも、とあるタイミングでこのやり方では、売り上げが増えても利益が増えないことに気がつき、技術力で勝てるゴキブリ駆除一本にしました。「技術力で日本のオンリーワン企業になるんだ」と決めたんです。
ゴキブリ駆除一本にしたことで、その時は売上が半分になりました。しかし、そこから徹底的に技術を磨き日本一と認められたことで、価格勝負にならなくなりました。さらに、営業費をかけなくても仕事が舞い込むようになったことで、結果として利益は何倍にも跳ね上がったんです。
技術より大切なのは「マインド」である
【長野】 他社にはできない「完全駆除」が、なぜ御社にはできるのでしょうか。特別な薬があるのですか。
【大野】 いいえ、薬はメーカーから買うので他社と同じです。違いは「手間」と「マインド」です。
業務用の冷蔵庫には、モーター周りや足の隙間など、巣になり得る場所が20箇所もあります。厨房全体なら1000箇所にもなる。 大手は毎月作業に伺い一回の作業時間を10分から15分と短時間で済ませることが多いですが、そんな短時間で全て見るのは不可能です。うちは作業を年二回とし、その代わり作業に5時間、6時間と長時間をかけれるようにしました。
冷蔵庫を動かし、裏側のゴミを徹底的に掻き出して薬をつける。だからゼロになる。
【長野】 圧倒的な作業量の違いですね。
【大野】 でも、一番の問題は「人の心」なんです。 夜中の無人の店で、誰も見ていない冷蔵庫の裏側。そこで手を抜かずに作業できるか。「働きアリの法則」で、どうしてもサボる人間が出てくる。 だからこそ、技術以上に「マインド(心)」が重要なんです。
「俺は日本一の職人だ」「このお客様の店を絶対に守るんだ」
という誇りがなければ、完全駆除はできません。
現在、うちは全国2000店舗と契約していますが、完全駆除できなかったのはわずか9店舗。99.5%の成功率です。業界初の「完全駆除できなければ全額返金」という保証制度もつけました。これは社員の覚悟の表れでもあります。
「能力給」を廃止し、「仲間意識」を評価する
【長野】 その高いマインドを維持するために、どのような組織作りをされているのですか。
【大野】 社員が「自慢できる会社」にすることです。 まず、うちは成果主義の能力給を否定しています。売上だけで評価すると、「今だけ、自分だけ、お金だけ」という考えになり、仲間を助けなくなる。
日本人は本来、農耕民族で、協力し合うことに幸せを感じるDNAを持っています。だから評価の50%は「仲間を助けたか」「ネガティブな発言をしなかったか」「感謝の言葉(サンクスギフト)を伝えたか」で決まります。
【長野】 営業マンがいないというのも驚きです。
【大野】 分業制にはしません。一人の社員が営業から見積もり、駆除作業、アフターフォローまで全て担当します。
自分が営業して取った仕事だから、現場で「こんな安い値段で取りやがって」と文句を言うこともない。お客様の顔が見えているから、最後まで責任を持ってやり遂げる。結果として、それが一番効率が良く、お客様の信頼も得られるんです。
無人島、ラーメン、そして未来へ
【長野】 今後の展望をお聞かせください。
【大野】 実は長崎県の壱岐に無人島を買いました。社員みんなでキャンプをしたいなと思って。 壱岐では古い旅館を再生してホテルにしたり、「鯛塩ラーメン」「ウニラーメン」といった壱岐の名物料理となるラーメン店も計画しています。
自慢できる会社のひとつとして、毎年海外旅行に行っていましたが、コロナ禍で行けなかった時は、鹿児島の知覧へ社員研修に行きました。特攻隊の歴史に触れ、日本人としての誇りを取り戻してほしかったからです。
【長野】 最後に、働く人たちへメッセージをお願いします。
【大野】 「やりたい仕事」を探すのではなく、「やりがいのある仕事」に変えていってほしいですね。
僕はよく新入社員にこう聞きます。「靴紐が切れたらどう思う?」と。朝玄関で靴を履こうとしたらブチっと靴紐が切れてしまった。その時に「不吉だ」と落ち込むか、「走っている最中に切れなくてラッキーだ」と思うか。事実は一つでも、解釈は自由です。
ゴキブリ駆除も、見方を変えれば街を救うヒーローになれる。 死ぬ時に、「俺がいたから世の中が少し良くなった」と笑って思えるような、そんな働き方を私たちと一緒にしてほしいですね。
編集後記:戦うあなたへ
「先行マシンと10センチの間隔で、並んで時速200kmのコーナーに飛び込む」 大野社長の口からその言葉が出た瞬間、元プロボクサーである私の背筋にも、現役時代のリング上の緊張感が走りました。
今回のインタビューで最も心を揺さぶられたのは、大野社長がその「命がけの勝負勘」と「妥協なきプロ意識」を、そのままビジネスの世界、それも「ゴキブリ駆除」という泥臭い現場に持ち込んでいる点です。
「生かさず殺さずで稼ぐ」という業界の悪しき常識を否定し、「完全駆除=ゼロ」にこだわり抜く姿勢。それはまさに、判定勝ちを良しとせず、常にKO勝利(完全決着)を追い求めるアスリートの美学そのものでした。
「やりたい仕事を探すな、やりがいのある仕事に変えろ」
この言葉は、今、仕事に迷いを感じている多くの人の背中を叩く、最強の応援歌だと感じます。 嫌われ者のゴキブリ駆除を「街を救うヒーロー」に変えた大野社長。その熱源に触れ、私自身もまた、明日への活力が漲ってくるのを感じました。
【Guest Profile】
大野 宗(おおの・そう)氏 株式会社クリーンライフ 代表取締役
元レーシングドライバー。桃売りのアルバイト、サラリーマンを経て、35歳で起業。業界の常識であった「定期管理(生かさず殺さず)」を否定し、年2回の施工でゴキブリゼロを実現する「完全駆除」の手法を確立。その圧倒的な技術力と、年間2000店舗・完全駆除率99.5%の実績で業界をリードする。 「社員満足度」を経営の軸に置き、日本建築学会選出のデザインオフィス、海外研修、独自の評価制度などを導入。現在は長崎県壱岐市での地方創生事業(無人島開発、ホテル・飲食事業)にも情熱を注ぐ。 YouTubeチャンネル: ゴキブリ博士
今回のインタビュアー
長野 憲次 元プロボクサー/株式会社アスリート式 代表取締役 「戦う経営者図鑑」編集長。リングという極限の場所で培った精神力をビジネスに転換し、現在は経営者へのインタビューやブランディング支援を行う。



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