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「ないなら作る」臆病な私が選んだ戦い方。孤独な女性たちと築くパズルのような組織論

  • 4 日前
  • 読了時間: 7分




華やかな経歴や成功事例が並ぶビジネスの世界。しかし、その裏側には、人知れず流した涙や、眠れない夜を過ごした葛藤があるはずです。


今回お話を伺ったのは、国際色豊かな美食の街・神戸でタイ料理店「神戸アジアン食堂バルSALA」などを経営しながら、在日外国人女性の雇用創出に取り組む、株式会社CASA GLOBALの奥 尚子さんです。


「社会起業家」という肩書きからは、芯が強くたくましいリーダー像を想像していましたが、目の前に現れた彼女は、驚くほど自然体で、そして繊細な感性の持ち主でした。


「実は、とても臆病なんです」

そう笑う彼女が、なぜ異国の地で孤立する女性たちのために立ち上がり、赤字や裏切り、そしてコロナ禍という荒波を乗り越えてこられたのか。その原動力に迫りました。



目の前の「理不尽」を見過ごせない。原点は違和感から



長野: 奥さんの活動を拝見して、アジア人女性の雇用など、社会的な意義の強い事業をされているなと感じていました。まずは、その活動に至ったきっかけを教えていただけますか?


奥: きっかけは大学1年生の時です。「社会起業学科」という、社会課題を解決するビジネスを学ぶ学科にいたのですが、授業で聞く貧困の話と、現実のギャップにモヤモヤしていて。 「自分の目で見ないと気が済まない」と思い、フィリピンのスモーキーマウンテン(ゴミ集積地)に行ってみたんです。


長野: すごい行動力ですね。実際に行ってみてどうでしたか?


奥: 授業では「かわいそう」と習った現地の子供たちが、実際は目をキラキラさせて遊んでいて、めちゃくちゃ楽しそうだったんです。家の外はボロボロでも、中には立派なカラオケセットがあったりして(笑)。 「あぁ、人間の豊かさってお金だけじゃないんだな」と衝撃を受けました。


一方で、帰国後に強く「嫌だな」と感じたのが、日本に住むアジア人のお母さんたちが抱える「孤独」でした。


長野: フィリピンの子供たちの明るさと対照的に、日本にいる彼女たちは孤立していたと。


奥: そうなんです。国際結婚で日本に来たものの、日本語も読めない、友達もいない、頼れるのは旦那さんだけ。もし私が逆の立場で、言葉の通じないタイに嫁いだらと思ったら……ゾッとしました。 さらに問題なのは、彼女たちの孤独が「社会問題」としてあまり認知されていないことでした。


「困っている人がいるのに、見過ごされている社会」に自分が生きているのが嫌だった。 だから、彼女たちが元気になる場所を作りたかったんです。



「支援」ではなく「横並び」。パズルのような関係性


長野: そこからどうやって事業にしていったんですか?


奥: 最初は学生時代のイベントでした。お母さんたちに屋台で母国の料理を作ってもらって販売したんです。 そうしたら、普段は家の中にいた彼女たちが、お客さんに「美味しい!」と言われて、自分の手で現金を稼いで、ものすごく自信をつけた表情になったんです。


その姿を見て気づきました。「強い人が弱い人を引き上げる支援」ではなく、「できることとできないことを補い合う」のが本当のチームなんだって。


長野: 補い合う、ですか。


奥: はい。私は料理は作れないけど、企画はできる。お母さんたちは日本語は苦手だけど、最高に美味しい料理が作れる。 まるでパズルのピースがカチッとはまるような感覚でした。 「支援する側・される側」という境界線が消えた瞬間、これが私のやりたいことだと確信したんです。


ただ、ボランティアでは継続性がありません。ビジネスとして成立させないと本当の意味で彼女たちを守れない。そう決意し、まずは自分が力をつけるためにリクルートへ就職しました。そこで3年半修行した後、満を持して現在のお店をオープンさせたんです。



開業から3年間の赤字。「裏切り」すらも燃料に変えて


長野: 有言実行で素晴らしいですね。

修行を経てのオープンとなると、順調な滑り出しでしたか?


奥: いえ、もう全然ダメでした(笑)。思い描いた理想を全部投入したのに、最初の3年間はずっと赤字。本当にしんどい日々でした。


長野: 3年も赤字……。それは心が折れそうになりますね。その中で一番きつかった出来事はありますか?


奥: 赤字もきつかったですが、人間関係のショックは大きかったですね。当時うちで働いていたスタッフが辞めた直後に、うちから徒歩3分の至近距離に自分のお店を出したことがあって。


長野: 徒歩3分ですか!? それは……仁義なき戦いですね。


奥: テクニックやノウハウだけ持って行かれたような気がして、すごくショックでした。「人情とかないんか!」って(苦笑)。 でも、そこで落ち込むのではなく、逆に闘争心に火がついたんです。「絶対負けへん、同じことできると思うなよ」って。


長野: 悲しむのではなく、ライバルとして燃えたんですね。


奥: 今振り返れば、その悔しさがあったから「負けないための工夫」をして、次のステップに進めたんです。だから、私の中ではあれは「失敗」ではなく、強くなるために「必要な経験」だったと捉えています。


臆病だからこそ、「声」に出して仲間を集める


長野: お話を聞いていると、奥さんはすごく芯が強いと感じます。でも冒頭で「自分は臆病だ」とおっしゃっていましたよね。


奥: はい、基本的にはグイグイ引っ張るタイプじゃないし、メンタルも弱いです。今も、物価高や人件費高騰で経営は本当に苦しい。「もうダメかも」って思うこともあります。 でも、リーダーである自分が下を向いていたら、前向きな力は集まってこない。だから、無理やりにでも「なんとかなる!」って思い込むようにしています。


長野: 戦う経営者のリアルですね。一人で抱え込んでしまうことはないですか?


奥: よく抱え込みます(笑)。人に頼るのが下手なので。 でも最近、ある常連さんに「元気?」って聞かれて、一瞬言葉に詰まったら、「元気ちゃうやろ、何か困ってるんか」って見透かされて。そこで初めて「実は……」って相談したら、涙が出てきてしまって。でも、その人がすぐに動いてくれて助けてくれたんです。


長野: 弱さを見せたことで、助け舟が来たんですね。


奥: そうなんです。振り返れば子供の頃からそうでした。女子サッカー部がないから「作りたい」、剣道部がないから「道場を作りたい」。 「ないなら作る」「これがやりたい」って、バカみたいに声に出していると、必ず誰かが助けてくれるんです。


プライドを捨てて、自分の足りないピース(弱さ)をさらけ出し、声を上げること。それが、臆病な私なりの「戦い方」なのかもしれません。


AI時代だからこそ、「人間臭さ」で戦う


長野: 今、まさに経営の荒波の中にいらっしゃると思いますが、これからのビジョンを教えてください。


奥: 今は世の中が効率化やAIに向かっていますよね。でも、私は逆を行きたいんです。「人が輝く場所」を作りたい。 タッチパネルも便利ですけど、やっぱり「人が介在する温かさ」に価値が戻ってくる揺り戻しが絶対に来ると思うんです。


長野: わかります。僕も最後は「人」だと思います。


奥: うちの店のコンセプトは「エンパワーメント(湧き上がる力)」です。国籍関係なく、パズルのように互いの凸凹を補い合って、みんなが優しくなれる社会の縮図を、この店から広げていきたい。 今は本当にしんどい時期ですけど、ここを突破して証明したいですね。「人間臭い店こそが、これからの時代に勝てるんだ」って。



【編集後記】戦うあなたへ


インタビュー中、奥さんは何度も「今の時期が一番しんどい」と口にしました。しかし、その目は決して諦めていませんでした。


自身の弱さを認め、それでも理想の社会のために「声」を上げ続ける彼女の姿は、まさに「しなやかに戦う経営者」そのものです。


「ないものは、作る」「できないことは、誰かと補い合う」

もし今、あなたが孤独な戦いの中にいるのなら、奥さんのように弱さをさらけ出し、声を上げてみてください。きっと、あなたのパズルのピースを必要としている誰かが、手を差し伸べてくれるはずです。


【Guest Profile】奥 尚子(おく・なおこ)


株式会社CASA GLOBAL 代表取締役 大学時代、在日アジア人女性の孤独な現状に触れ、社会起業を志す。リクルート(ホットペッパー)での3年半の勤務を経て、神戸・元町にタイ料理店を開業。日本人と外国人が共に働き、互いを補い合う「エンパワーメント」な組織づくりを実践している。


今回のインタビュアー

長野 憲次 元プロボクサー/株式会社アスリート式 代表取締役 「戦う経営者図鑑」編集長。リングという極限の場所で培った精神力をビジネスに転換し、現在は経営者へのインタビューやブランディング支援を行う。

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