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~元世界王者・石田順裕が迫る、ファームテック喜界・岩下雅大の不屈の魂~

  • 2月18日
  • 読了時間: 11分

更新日:2月19日




画面越しに現れたその男の顔には、生々しい傷跡が残っていた。


逆光の中で笑うその巨漢こそ、かつて「南国超人」の異名でリングに上がり、現在は鹿児島県・喜界島で農業の常識を覆そうとしている男、株式会社ファームテック喜界の代表、岩下雅大氏だ。


対するは、元WBA世界スーパーウェルター級王者・石田順裕氏。今回は、アスリートが経営者の生き様に迫る『戦う経営者図鑑』、特別企画のインタビュアーとして参加する。


現役時代の岩下を知る石田は、画面の向こうの旧友の変貌ぶりに驚きを隠せなかった。

しかし、その瞳の奥に宿る「闘志」は、K-1のリングに立っていた頃よりもさらに熱く燃え上がっているように見えた。


死の淵から生還したばかりだという衝撃の告白から始まったこの対談。


元アスリートがセカンドキャリアで直面する葛藤、安定を捨てて掴んだ夢、そして離島の農業に革命を起こす経営者としての覚悟。


戦う場所を変えてもなお、挑戦を続ける二人の男の熱い対話をお届けする。



顔面の傷と、4トンの重み




【 石田: 】

お久しぶりです。いやあ、岩下さん、雰囲気変わりましたね。

僕の中では現役時代の、あのファイターとしての岩下さんのイメージが強烈に残ってるんですけど、今はもう完全に「経営者」の顔つきですわ。


【 岩下: 】

ご無沙汰してます!いやいや、そんなことないですよ(笑)。


【 石田: 】

それにしても、顔の傷、どうされたんですか?


【 岩下: 】

これですか(笑)。実はつい先日、1月18日に事故りまして……。

サトウキビの収穫機ってあるじゃないですか。ハーベスターっていうんですけど、あれ、4トンくらいあるんですよ。


【 石田: 】

4トン!?


【 岩下: 】

ええ。最近の機械ってバックモニターがついてて、座ったままバックできるんです。

それで油断してたんでしょうね。時速15キロくらいでバックした瞬間に、機械から放り出されてしまったんです。


【 石田: 】

ええっ……それ、大事故じゃないですか。


【 岩下: 】

「あ、飛んで逃げなきゃ」と思ったんですけど、その瞬間に右ストレートをバコーン!と食らったような衝撃があって。一瞬気を失ったんですけど、目が覚めたら、その4トンの機械が僕の右腕の上に降ってきていたんです。


【 石田: 】

うわあ……。


【 岩下: 】

結果、眼窩底骨折、鼻骨骨折、胸骨と肋骨も折れて、左手も折れました。

喜界島の病院だと対応しきれなくて、翌日鹿児島の病院に行ったんですけど、医者に「入院しなくていいですか?」って聞いたら「いいよ」って言われたんで、そのまま帰ってきて仕事してます(笑)。


【 石田: 】

いやいや、笑い事ちゃいますよ!まさに九死に一生ですね。



安定を捨てた「南国超人」の葛藤


【 石田: 】

しかし、岩下さんといえば「南国超人」のリングネームで活躍されてましたけど、もともとは消防士だったんですよね?


【 岩下: 】

そうです。実は僕、高校時代は野球部で、体だけはデカかったんですけど球技が苦手で(笑)でも努力だけは誰よりもしてましたね。


19歳から格闘技を始めたんですけど、24歳くらいの時に将来が不安になってきましてね。


【 石田: 】

ああ、わかります。その年齢って、周りが就職したり結婚したりして、焦る時期ですよね。


【 岩下: 】

そうなんです。ヘビー級でスパーリングばっかりやってて「パンチドランカーになったらどうしよう」とか怖くなって。


それで「公務員ならクビがない!」と思って消防士を目指しました。

ものすごい倍率の試験を猛勉強して突破して、レスキュー隊に入ったんです。


【 石田: 】

そこからまた、なんで格闘技に戻ろうと?


【 岩下: 】

やっぱり、諦めきれなかったんですよね。

消防士として働きながらも、かつてのライバルたちがリングで輝いているのを見ると、モヤモヤしてしまって。もう子供も2人いたんですけど、妻が背中を押してくれたんです。


「やりたいこと、最後なんだからやったら?」


【 石田: 】

奥さん、すごいですね!普通なら安定した公務員を辞めるなんて言ったら大反対されますよ。


【 岩下: 】

本当に感謝してます。でも、そこからが地獄でした。

消防を辞めて、スポンサーを探しながらの生活だったんですが、当然すぐには食べていけません。


朝はランニング、昼間は産廃業者のアルバイト、夕方から練習して、夜中はクラブの警備員。帰宅するのは深夜2時、3時という生活でした。


【 石田: 】

うわ、それはキツい……。体、ボロボロになりますよね。


【 岩下: 】

しんどかったですね。隙間時間があれば車の中で寝てました。

しかも、日本にはヘビー級の選手が少なくて、試合がなかなか組まれないんです。


団体間の壁もあって、タイトルマッチのチャンスも来ない。

30歳を過ぎて、ただキャリアだけを重ねていく日々に焦りしかありませんでした。



奇跡の出会いと、K-1という夢の終わり



【 石田: 】

そこからどうやってK-1の舞台まで辿り着いたんですか?


【 岩下: 】

31歳の誕生日に奇跡が起きたんです。

大阪の天神祭の日だったんですけど、渋滞に巻き込まれて、いつも行く居酒屋に遅れて着いたんです。


そしたら、たまたま東京から来ていた社長さんと出会って。


そこで「俺が面倒見てやるよ」って言ってもらえて、拠点を東京に移すことになったんです。


【 石田: 】

すごい巡り合わせですね。まさに運命を変える出会いだ。


【 岩下: 】

そこから紆余曲折あって、ようやくさいたまスーパーアリーナのK-1のリングに立つことができました。


オープニングセレモニーのリハーサルで、感極まって泣いちゃいましたよ。「ああ、夢の舞台だ」って。


【 石田: 】

わかります。その景色を見た人間にしかわからない感動がありますよね。


【 岩下: 】

でも、試合は1ラウンドで終わりました。

相手は身長198cmの強豪で、ミドルキック一発で倒されてしまった。

息ができなくて、何もできずに終わったんです。


【 石田: 】

……悔しかったでしょう。


【 岩下: 】

悔しかったです。でも同時に、憑き物が落ちたような感覚もありました。


「世界で勝つには海外に拠点を移すしかない。でも、今の自分にはそこまでする余力も時間もない」


そう悟った瞬間に、「よし、島に帰ろう」と思えたんです。


(※石田は深く頷く。引き際を悟る瞬間、それはアスリートにとって残酷でありながら、次の人生へのスタートラインでもあることを、彼自身もよく知っているからだ。)



喜界島から世界へ。「黒糖」で起こす革命



【 石田: 】

島に戻って、そこからどうやって今の「ファームテック喜界」を立ち上げたんですか?


【 岩下: 】

最初は実家のサトウキビ農業を継いだだけでした。

でも、2019年に農業研修で「6次産業化」という言葉に出会って衝撃を受けたんです。


生産(1次)×加工(2次)×販売(3次)で6次化。これだ!と思って。


【 石田: 】

サトウキビを作るだけじゃなくて、自分たちで商品にして売ると。


【 岩下: 】

そうです。試しに家でサトウキビを絞って、おばあちゃんの釜で煮詰めて黒糖を作ってみたら、これがめちゃくちゃ美味しかったんです。


「これをやりたい!」と思って、工場を建てました。




【 石田: 】

岩下さんのところの黒糖、めちゃくちゃ美味しいですよね。今まで食べてたのと全然違う。


【 岩下: 】

ありがとうございます!喜界島は隆起サンゴ礁の島なので、土壌にミネラルが豊富なんです。だから美味しい黒糖ができる。


僕の今の目標は、世の中の白砂糖をこの黒糖に変えていくことです。栄養価も高いし、みんな健康になる。


【 石田: 】

壮大な目標ですね!でも、岩下さんなら本気でやり遂げそうですね。


【 岩下: 】

あとは、サトウキビの搾りかす「バカス」を使った商品開発も進めています。捨てるところがないエコな作物なんですよ。


事業を拡げて雇用を生み出し、過疎化が進む喜界島の人口を増やしたい。それが僕の経営者としての戦いです。



父ちゃんはまだ戦っている


【 石田: 】

最後に、これからの個人的な目標ってありますか?


【 岩下: 】

実は今、一級船舶免許を取ろうと思ってるんです。


【 石田: 】

え?船ですか?


【 岩下: 】

はい。喜界島ってアクセスが悪くて、隣の奄美大島に行くのも大変なんです。船だと2時間かかるし、便数も減ってる。


うちには5人の子供がいるんですけど、全員女の子で、スポーツをさせようにも島には対戦相手や環境がないんです。


【 石田: 】

ああ、なるほど。環境の問題ですね。


【 岩下: 】

僕自身、競争相手がいない環境で育って、メンタルの弱さを感じたことがありました。


だから子供たちには、もっと外の世界を見せてあげたい。

自分で船を運転すれば、40分で奄美まで連れて行けるんです。練習試合もできるし、可能性が広がる。


【 石田: 】

うわあ……かっこいいなあ。


【 岩下: 】

「父ちゃん頑張ろう」って感じです(笑)。

経営は夢を叶える手段だと思っているので、仕事も子育ても、全力で楽しんでます。


【 石田: 】

岩下さんの話を聞いていると、「仕事は辛いもの」って思ってる若者の価値観が変わる気がします。本当に楽しそうですもん。


【 岩下: 】

考える前に行動することですね。

動けばわかる。失敗しても、それは経験になりますから。これからもフルスロットルでぶっ飛ばしていきますよ!



【番外編】「ジャブは世界を制す」

~妻との復縁と、うなぎ弁当の悲劇~

(本編のインタビュー終了後、録画を止めたリラックスした空気の中で……)


【 岩下: 】

実は石田さん、さっきの「人生最大の壁」の話なんですけど、本当は別のエピソードを用意してたんですよ。


【 石田: 】

まだ他にあるんですか?


【 岩下: 】

はい。本当は「妻との出会い」について話そうと思ってて。

でも後から考えたら格闘技に関係ないなと思ってやめたんですけど。(笑)。


【 石田: 】

いやいや、それ一番聞きたいやつです!教えてくださいよ。


【 岩下: 】

妻とは喜界島の同級生で、20歳くらいまで付き合っていたんです。

でも、僕が浮気をしてしまって……自分から「別れよう」って言ったんですよ。


【 石田: 】

自分から(笑)。


【 岩下: 】

でもやっぱり忘れられなくて、「戻ってほしい」って言った時には、彼女にはもう新しい彼氏ができていまして。


そこから2年くらい、毎晩メールを送り続けました。

でも全然返ってこない。


「これじゃパンチの手数が足りない!」と思って、朝晩送るようにしたんです。「ジャブは世界を制す」と信じて。


【 石田: 】

(爆笑)


【 岩下: 】

ある時、「うなぎ事件」が起きたんです。


僕の誕生日がちょうど土用の丑の日で、当時彼女が住んでいた奈良で「うなぎ屋に行こう」って約束を取り付けることができたんですよ。


でも直前になってドタキャンされて。


【 石田: 】

うわ、それはキツイ。


【 岩下: 】

でも「ピンチはチャンスだ!」と思って、うなぎ弁当を買って、彼女の奈良の家まで押しかけたんです。


着いて電話しても全然出ない。「せっかく買ってきたのに!」と思って何回もかけたら、やっと出たんですけど、めちゃくちゃキレられまして。


「病気で寝込んでるのになんでかけてくんの!」って(笑)。


【 石田: 】

えぇそれはショックですね(笑)。


【 岩下: 】

もう凹みましたよ。「せっかく奈良まで来て、うなぎまで買ったのになんでやねん……」って。帰りは生駒山を下道で数時間かけて帰りました。


そこでもう心が折れて、2年間続けてきた「ジャブ(メール)」をきっぱりやめたんです。


【 石田: 】

ついに諦めたんですか?


【 岩下: 】

諦めてたんですけど、不思議なもんで、しばらくして友人が食事会を企画してくれたんです。


そこに妻も来てくれて。


【 石田: 】

おお!そこで再会したんですね。


【 岩下: 】

はい。そこで久しぶりに顔を合わせて話したら、自然とまた元の関係に戻れたんです。


あの2年間のジャブがなかったら、友人も誘ってくれなかったかもしれないし、妻も来てくれなかったかもしれない。


やっぱり「継続は力なり」だったのかなと(笑)。


【 石田: 】

なるほど!ジャブを打ち続けたからこそ、周りが動いてくれたのかもしれませんね。

いい話じゃないですか!


【 岩下: 】

そう言ってもらえると救われます(笑)。



画面越しの二人は、この日一番の笑顔で笑い合った。4トンの機械に勝った男は、恋のリングでもやはり「不屈の男」だったのだ。

(文:戦う経営者図鑑編集長 長野憲次)



【Guest Profile】

岩下雅大(Iwashita Masahiro)

株式会社ファームテック喜界 代表取締役


鹿児島県・喜界島出身。元プロ格闘家。

高校卒業後、消防士(レスキュー隊)として勤務する傍ら格闘技を始め、20代後半で退職し上京。「南国超人」のリングネームでK-1のリングにも立つ。引退後は故郷に戻りサトウキビ農業に従事。2019年に「6次産業化」を目指して株式会社ファームテック喜界を設立。ミネラル豊富な喜界島の黒糖を世界へ広めるべく奮闘中。5児の父。



【interviewer】

石田 順裕(Ishida Nobuhiro)

元WBA世界スーパーウェルター級暫定王者

戦う経営者図鑑公式インタビュアー


大阪府出身。

プロボクサーとして海外を拠点に活躍し、2009年に34歳で世界タイトルを獲得。引退後は指導者として後進の育成にあたる。現在は石田ボクシングジム会長。現役時代から親交のある岩下氏の「不屈の闘志」に共鳴し、今回の対談が実現した。

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