ただの運搬ではない。引越しを人生の『最高の瞬間』へとプロデュースする闘う経営者の素顔
- 4 日前
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パリッとしたスーツを着こなし、スマートな笑みを浮かべる男こそ株式会社スタームービング代表取締役、山本恒夫氏。しかし、その洗練された外見の奥底には、泥水と汗に塗れ、絶望の淵から這い上がってきたストーリーが隠されている。
「引っ越し」
それは多くの人にとって『面倒で退屈な作業』に過ぎないかもしれない。
だが、山本氏はその常識を根底から覆す。彼にとって引っ越しとは、単なる物流ではなく、人々の人生を豊かにする『極上のエンターテインメント』であり、夢の実現への第一歩なのだ。
なぜ彼は、業界の異端児として独自の哲学に行き着いたのか。そのルーツを探ると、16歳の少年が背負った理不尽で過酷な『地獄』があった。元プロボクサーとして数々の修羅場を見てきた長野憲次が、山本氏の胸の内に秘められた泥臭い生存戦略と、彼が言語化する『引っ越しの本当の価値』に迫る。
経営者でありながら現場で汗を流す理由
【長野憲次】 山本さん、本日はよろしくお願いします。それにしても、スーツ姿になるとまた一段と雰囲気が変わりますね。前回お会いした1ヶ月前よりも、少し身体が絞られているように見えますが。
【山本恒夫】 そうですね。1、2キロは痩せたかもしれません。引っ越し業界にとって一番の繁忙期でしたからね。
【長野憲次】 社長自ら、現場や倉庫での作業に入られているとお聞きしました。トップに立つ人間が、今でも現場で汗を流している。そのスーツ姿と現場での泥臭い姿のギャップに、経営者としての凄みを感じます。
【山本恒夫】 倉庫での作業を手伝ったり、現場の空気を肌で感じたりすることは、自分にとってごく自然なことなんです。
【長野憲次】 今日はその山本さんの根底にある『想い』を、深く掘り下げさせてください。先日、山本さんが『引っ越しの価値を言葉にして伝えるのが難しい』と仰っていたのが非常に印象に残っています。具体的に、どのような部分にもどかしさを感じていらっしゃるのでしょうか。
【山本恒夫】 お客様を感動させる、とはどういうことなのか。それを社員や世の中に伝える難しさですね。うちの行動指針には『スマートにかっこよく』という言葉が入っています。引っ越し屋さんのあるあるなんですが、少し仕事ができるようになると、天狗になって調子に乗ってしまう人間が多いんです。
【長野憲次】 ボクサーの世界でも同じです。少し勝てるようになると、基礎を忘れて派手なプレーに走る。
【山本恒夫】 そうですよね。ダンボールを一度に3つも4つも担いで見せたりして、それが『かっこいい』と勘違いしてしまう。でも、本質はそこじゃない。ダンボールを2つずつ安全に運ぼうが、全体のスピードなんて大して変わりません。
そんな独りよがりの作業よりも、お客様としっかりコミュニケーションを取り、寄り添うことの方がよっぽど重要だしやりがいがあるんです。
【長野憲次】 ただ荷物を運ぶだけの作業員ではなく、お客様の人生に寄り添う誠実さが必要だと。
【山本恒夫】 その通りです。経営理念として『誠実と希望』を掲げ、お客様の夢の実現を応援する対応を求めているのですが、その本当の意味を理解して体現できる人間を育てるのは、やはり一筋縄ではいきません。
引越し作業員が弾くピアノ
【長野憲次】 引っ越しは、お客様にとって人生の大きな分岐点であり、一大イベントです。山本さんがこれまで現場に立たれてきた中で、印象に残っているエピソードがあれば教えていただけますか。
【山本恒夫】 創業して間もない頃の話です。あるお客様の引っ越しで、ピアノを運ぶ作業がありました。今でこそピアノの運搬は専門の業者に外注するのが一般的ですが、当時は自分たちの手で運んでいたんです。
【長野憲次】 相当な重労働ですよね。
【山本恒夫】 ええ。無事にピアノを新居に運び入れた後、私はお客様にこう言ったんです。『少し調律がずれていないか確認しますね』と。
【長野憲次】 えっ、山本さんはピアノの調律までできるんですか?
【山本恒夫】 いや、調律なんて全くわかりませんよ。ただ、私はピアノを少しだけ弾くことができたんです。だから、その場で誰もが知っているようなメジャーな曲を、お客様の目の前で弾いてみせたんです。
【長野憲次】 引っ越しの作業員が、汗だくのまま突然ピアノを弾き始める。それは面白い光景ですね。
【山本恒夫】 お客様のお子さんたちが目を丸くして驚き、そして大喜びしてくれました。『引っ越し屋さんって、ピアノを運ぶだけじゃなくて弾けるんですね!』って。お客様も感動してくださって、その場が割れんばかりの拍手と笑顔に包まれました。
【長野憲次】 鳥肌が立ちました。世間の人々が持っている『引っ越し屋=力仕事』という固定概念が見事に打ち砕かれた瞬間ですね。その強烈なギャップこそが、人の心を揺さぶる感動を生むのだと痛感します。
【山本恒夫】 だから私は、ただ黙々と無言で荷物を運ぶような引っ越しはしたくないんです。その日の天気の話から始まり、お仕事のこと、趣味のこと。部屋中にある荷物からお客様との共通点を見つけ出し、会話を重ねる。会社対お客様という無機質な関係ではなく、一人の人間として気に入ってもらえるような対応をする。それが私たちのやりがいにも直結するんです。
【長野憲次】 まさにエンターテインメントですね。人間同士のぶつかり合いというか。山本さんにとって、引っ越しという言葉を別の言葉で表現するとしたら、何になりますか?
【山本恒夫】 人生の新たな『門出』、『ワクワク』ですかね。
【長野憲次】 ただの荷物移動ではなく、幸せを運んでいる。そう考えると、引っ越しという仕事のイメージが全く別次元のものに変わります。
【山本恒夫】 以前の経営理念に『感動』という言葉を入れていた時期がありました。新卒の学生たちがそれを見て面接に来るのですが、最初はみんな『引っ越しと感動が結びつかない』と不思議そうな顔をするんです。でも、今のピアノの話のようなエピソードを伝えると共感してもらえるんです。
16歳で背負った借金300万と、夢へのきっかけ。
【長野憲次】 多くの引越し業者が単なる運搬作業と割り切る中、なぜ山本さんは引っ越しを『エンタメ』や『感動』という領域まで昇華させることができたのでしょうか。その根底にあるルーツをお聞きしたいです。
【山本恒夫】 私が引っ越し業界に関わることになったきっかけは、16歳のときに起こしたバイク事故でした。
【長野憲次】 16歳でのバイク事故。何があったのでしょうか。
【山本恒夫】 高校1年生のときでした。一時停止を無視して交差点に突っ込み、走ってきたベンツの側面に激突したんです。ドア2枚分を完全に破壊する大事故でした。しかも相手は車関係の仕事をしている人で、私は任意保険に入っていなかった。
【長野憲次】 保険なしでベンツを破壊…。それは想像しただけで血の気が引きます。
【山本恒夫】 相手からの請求額は300万円。当時の高校生にとっては天文学的な数字です。実家も決して裕福ではなかったので、親に泣きつくこともできない。自分で稼いで返すしかないという、逃げ場のない絶望的な状況に追い込まれました。
【長野憲次】 16歳で300万の借金。まさに地獄ですね。どうやってその状況を乗り越えたんですか。
【山本恒夫】 昼間は引っ越し屋で汗水流して働き、夜は居酒屋でアルバイト。文字通り朝から晩まで、ダブルワークで借金返済のためだけに身を粉にして働く日々でした。あの頃の自分は、本当にどん底の高校生でしたね。
【長野憲次】 過酷でしたね。でもその出来事があったからこそ、引っ越しという仕事に出会った。
【山本恒夫】 ええ。借金を返すために必死に働いていた19歳のとき、ある引っ越し会社に転職したんです。そこでの体験が、私の人生を決定づけました。
【長野憲次】 どのような会社だったのですか?
【山本恒夫】 それまで私が経験してきた引っ越し屋は、ただ荷物を運んでお金をもらうだけの無機質なものでした。しかしその会社は全く違った。
スタッフ同士の掛け合いもまるでコメディアンのようで、お客様を全力で楽しませ、最後には心の底からの『ありがとう』をもらう。作業員がまるで俳優のように、引っ越しという舞台を演出していたんです。
【長野憲次】 引っ越しがエンタメになることを、そこで体感したのですね。
【山本恒夫】 そうですね。引っ越しでこんなに人を笑顔にできるのか、こんなにやりがいがあるのかと。
【山本恒夫】 だから私は思いました。『自分で会社を作り、引っ越しでたくさんの人を幸せにしたい』と。事故の借金を完済し、必死に貯めた資金を元手に独立を決意したんです。
【長野憲次】 もしあの時、バイク事故で借金を背負わなければ。もしその社長が真面目に働いていたら。
すべての絶望と理不尽な点が、今のスタームービングという線に繋がっている。すごいストーリーです。
引っ越しの価値とは何か。人生の豊かさを拡張する哲学
【長野憲次】 引っ越し=なんか面倒くさい、という世間の常識。山本さんはそれを『ワクワクするエンタメ』へと変革しようとされています。
【山本恒夫】 引っ越しというネガティブな価値観を、ポジティブなものに変えたいんです。行政の手続きなどがテクノロジーでもっと簡単になれば、日本人の引っ越し回数はもっと増えるはずです。
【長野憲次】 確かにそうですね、ズバリ教えてほしいのですが、山本さんが考える『引っ越しの本当の価値』とは、言葉にするなら何でしょうか。
【山本恒夫】 一言で言えば、『人生が豊かになること』です。
引っ越しをする度に地元が増える。新たな人との出会いがある。新たな価値観との出会いがある。
【長野憲次】 非常に興味深いです。
【山本恒夫】 人生80年として、ずっと同じ場所に住み続けるのはもったいないと思うんです。私は川崎から横浜へ引っ越した経験がありますが、それだけで川崎と横浜、二つの地元ができました。関わるコミュニティも2倍になり、美味しいご飯屋さんも2倍知ることができる。同窓会だって二つの地域で呼ばれるわけです。
【長野憲次】 なるほど。引っ越しとは単なる住所変更ではなく、自分の世界を広げ、新たなコミュニティや価値観を獲得するための行為なんですね。
【山本恒夫】 その通りです。10年スパンで引っ越しを重ねていけば、その分だけたくさんの地域の良さを知ることができる。それが人間の器を広げ、人生の圧倒的な価値になるんです。
宇宙への挑戦? 今後のスタームービング
【長野憲次】 そのビッグイベントを任されるスタームービングは、お客様にとってどんな存在でありたいですか?
【山本恒夫】 『お客様の夢の実現を応援する企業』でありたいです。
引っ越しは、お客様の夢に向けた行動の一つ。私たちはただ荷物を運んで終わりではなく、引っ越し後も末永くお付き合いができる人生のパートナーになりたい。
必要であれば専門のファイナンシャルプランナーなどをご紹介し、暮らし全体をサポートできる仕組みを本気で創り上げていきます。
【長野憲次】 引っ越し業者という枠を完全に超えています。人生のインフラであり、パートナーですね。
最後に、山本さんが見据える遥か先の未来のビジョンについて教えてください。
【山本恒夫】 子供からお年寄りまでわかりやすいように『星が動く(スタームービング)』と名付けたのが最初ですが、今は本気で宇宙を見据えています。イーロン・マスクが火星移住を語っていますが、人類が地球から月や火星へ引っ越しをする時代が必ず来る。
その時、最先端の技術を駆使して、宇宙への引っ越しを一番最初に手がける企業でありたいんです。
【長野憲次】 宇宙への引っ越し!スケールが規格外すぎます。でも、引っ越しの常識を覆し続けてきた山本さんなら、本気で実現させてしまうという凄みを感じます。
【山本恒夫】 できない理由を並べるのではなく、できるように軌道修正しながら進む。それが私のやり方ですから。引っ越しに少しでも不安を感じている方がいたら、ぜひ私たちに相談してほしい。
面倒くさいを超えるほどのワクワクと、人生が豊かになる最高の思い出を提供します。
【長野憲次】 山本さんの哲学が、一人でも多くの大人たちに届くことを確信しました。本日は熱いお話を本当にありがとうございました。
編集後記
16歳という若さで300万円もの負債を背負い、昼夜問わず肉体を酷使し続けた山本社長の過去は、まさに先の見えない『地獄の時間』だったはず。
普通なら社会を恨み、自暴自棄になってもおかしくない。しかし彼は、その理不尽な環境の中から『引っ越しはエンターテインメントになる』という一筋の光を見つけ出し、自らの力でスタームービングという夢の発信地を築き上げた。
『引っ越しとは、地元を増やし、人生を豊かにすること』 彼が絞り出すように言語化したこの考えは、ただの綺麗なスローガンではない。泥水の中から立ち上がり、数え切れないほどの現場で汗を流し、お客様と本気で向き合ってきたからこそ語れる、確かな真理だ。
いま、日々の業務や先行きの見えないビジネスの世界で、もがき苦しんでいる方たちへ伝えたい。 あなたが今直面している理不尽なトラブルや、逃げ出したくなるような絶望も、決して無駄ではない。
山本社長がバイク事故の負債を力に変え、夢を形にしたように、今のその苦しみこそが、未来のあなたを飛躍させる最強の武器になる。
立ち止まるな。できない理由を探すのではなく、できるようになるまで軌道を修正し続けろ。 宇宙への引っ越しを本気で見据える山本社長の背中が、私たちにそう語りかけている。
プロフィール
【ゲスト】 山本 恒夫(やまもと つねお) 株式会社スタームービング 代表取締役。16歳でのバイク事故をきっかけに多額の借金を背負い、返済のために引っ越し業界へ。過酷な労働の中で「エンターテインメントとしての引っ越し」の可能性に目覚め、独立。現在は「お客様の夢の実現を応援する企業」として、引っ越しの常識を根本から変革し続けている。
【インタビュアー】 長野 憲次(ながの けんじ) 元プロボクサー。リングという極限状態を生き抜いた勝負勘と、人間の本質を見抜く洞察力を武器に、数々の経営者の表面的な成功談ではなく、泥臭い「生存戦略」を引き出すインタビューを得意とする。



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