ラスベガス経由、城崎温泉行き。老舗旅館4代目が教える「仕事を遊ぶ」という生存戦略
- 2月15日
- 読了時間: 8分
更新日:2月18日

柴田 良馬(しばた りょうま)
兵庫県城崎温泉「但馬屋」四代目主人。
高校卒業後、アメリカ・ネバダ州立大学へ留学しホテル経営を学ぶ。ラスベガスの旅行会社勤務を経て帰国。
「伝統を守るために変わる」をモットーに、アナログな現場仕事からIT戦略まで、泥臭く奔走する戦う経営者。
「いやあ、すごい雪ですねえ」
出迎えてくれた柴田良馬社長は、開口一番そう笑った。
「昨日まで出張だったんですけど、夜に城崎に帰ってきたら雪で家に入れないんですよ。玄関の前に雪が積もりすぎてて」
家に入れないほどの豪雪。車も埋まりそうな状況でも、彼はそれを楽しんでいるように見えた。
今回は、そんな柴田社長の「強さ」の裏側にある、泥臭いストーリーを聞かせてもらった。
柔和な雰囲気の裏に隠された、四代目の「したたかな戦略」と「覚悟」。
大学受験全滅、海外への逃避、そして今なお続く現場での格闘。私も思わず唸った、生存戦略のリアルをお届けする。
留学は逃げ道だった?
【長野】
四代目ということは、小さい頃から「お前が継ぐんだぞ」みたいな教育を受けてこられたんですか?
【柴田】
いや、それが特にないんですよ。親から「継げ」と言われたこともないし、僕自身も継がなければいけないなんて思ってなかった。
高校時代は進学校に行っていたにも関わらず、全然勉強しなくて。大学受験は見事に「全滅」してるんです 。
【長野】
全滅ですか。それはまた、派手にやられましたね。
【柴田】
自業自得ですけどね。親父からも「お前が勉強しなかったのが悪い。行きたくもない大学に行かせない」と突き放されて。
将来どうしようかな、と途方に暮れていた時に、親がポロッと言ったんです。
「まあ、留学っていう道もあるぞ」と 。
【長野】
そこで海外へ。
【柴田】
聞こえはいいですけど、当時の僕にとっては完全なる「逃げ道」でした。日本の受験戦争に負けて、居場所がなくて、海外に抜け道を見つけただけ。「海外で勉強して、新しい人生探せばいいや」くらいの、そんな甘い気持ちでアメリカへ渡りました 。
【長野】
でも、その「逃げ」が転機になった?
【柴田】
そうなんです。ラスベガスでホテル経営を学びながら、外から日本を見た時にハッとしたんです。「地元の城崎温泉って、すごく魅力的な場所だったんだ」って 。
皮肉ですよね。日本から逃げ出したことで、初めて地元の魅力に気づいたわけですから。
リッツ・カールトンから家業へ
【長野】
帰国後は、すぐに実家へ?
【柴田】
最初は外資系のリッツ・カールトンから内定をもらっていました。まずは外の世界で修行しようと思って 。
でも、次の仕事までのつなぎで、半年くらい時間があったので、帰国した翌日に実家の旅館へ挨拶がてら顔を出したんです。そうしたら、いろいろと手が回っていない部分が見えてきて。
【長野】
手が回っていない、というのは?
【柴田】
ITまわりですね。ホームページはあるけれど、予約サイトへの在庫出しが全然できていなくて、売れるはずのものが売れていない状態だったんです。契約はしてるのに活用できていない 。
世間話をしながら「明日も暇だし、ここやっとくわ」みたいな軽いノリで勝手にパソコンをいじって設定を変えてみたら、どんどん予約が入りだして。
【長野】
手応えを感じちゃったわけですね。
【柴田】
そう、それが面白くなっちゃって。「これ、僕がやった方が伸びるんちゃうか?」と 。
売上が上がっていくのがゲームみたいで楽しくて、「自分がいなきゃ回らない」と思っちゃったんです。気が付いたら但馬屋の社員として働くようになり、専務を経て社長になって、今に至るって感じです(笑)。
【長野】
自然な流れですね!
【柴田】
不思議なことに、その間、親から「お前、働け」と言われたことも、「社長になれ」と言われたことも一度もないんですよ。
「社長」なんて名ばかり。現実は「何でも屋」
【長野】
若旦那として就任されてからは、順風満帆でしたか?
【柴田】
とんでもない。一番のピンチはずっと続いている「人手不足」です 。これは過去の話じゃなくて、今でもそうですけど、とにかく人が足りない。
だから、経営者だろうが若旦那だろうが関係ないですよ。人がいなかったら、僕が皿洗いもするし、調理場に入って盛り付けも手伝う 。
特にキツかったのは、夜警さんが辞めてしまった時ですね。代わりが見つかるまで、僕が夜警として旅館に泊まり込んでいました 。
【長野】
社長業の片手間に、ではなく?
【柴田】
ガッツリ現場の穴埋めです(笑)。
0時頃まではフロントにいて、そこからお風呂の清掃をして、少し仮眠して、朝5時半頃からまたフロント業務に戻る……という生活でした。
「経営者は現場に出るな」なんて教科書通りのことは言ってられません。でも、そうやって必死に現場を回しながら、広報活動なんかも泥臭くやっていましたね。
【長野】
具体的にはどんなことを?
【柴田】
テレビ局のディレクターさんと一緒になって、番組作りをお手伝いしたりしていました。
【長野】
自分の宿の宣伝ですか?
【柴田】
いえ、むしろ逆です。城崎温泉は「町全体がひとつの温泉旅館」という考え方が根底にあるので、番組で取り上げてほしいのは但馬屋そのものではなく、城崎温泉という町なんです。
だから、宿のためというより、城崎温泉を紹介してもらうことを一番の目的として本気で取り組んでいました。
「効率化」も大事だけど「部屋食」を続ける理由
【長野】
柴田さんが経営者として、「これだけは絶対に譲れない」というこだわりはありますか?
【柴田】
「オンリーワン」であること、これに尽きますね。その象徴が「部屋食」です。
今、全国の旅館がどんどん部屋食をやめて、食事処(レストラン形式)に変えているのをご存知ですか?
【長野】
ああ、よく聞きますね。その方が効率がいいからですよね?
【柴田】
そうです。部屋食は運ぶ手間もかかるし、人手も必要だし、コストも跳ね上がる。経営の合理性だけで考えたら、真っ先にカットすべきサービスのひとつとして考えられるのは当然だと思います。
でも、うちは意地でも部屋食を続けています。
【長野】
時代に逆行してでも、ですか?
【柴田】
正直なところ、すべてのお客様が部屋食を求めているとは思っていません。中には、あまり好まれない方がいらっしゃるのも事実です。
ただ、選択肢のひとつとして「但馬屋での部屋食」を選んでいただいた方に、旅館文化のひとつとして、その時間を「体験」として楽しんでいただきたいと考えています。
【長野】
なるほど、あえて選んでくれた人への「体験」の提供なんですね。
【柴田】
僕らスタッフにとっては三六五分の一日でも、お客様にとってはかけがえのない一日なんです。その重みを考えたら、「大変だから」という理由だけで文化を捨てたくない。
まあ、現場のスタッフにとっては肉体的にもキツい仕事なんですけどね(笑)。
【長野】
想いは素晴らしいですが、実際に働くスタッフにとっては、その「重労働」が壁になることもありませんか?
【柴田】
おっしゃる通りです。「お客様のために」と頭では分かっていても、毎日の布団敷きや配膳はやっぱりしんどい。理想と現実のギャップで悩む子もいます。
つまらない仕事を「ゲーム」に変える
【長野】
そんな彼らに、もしくは仕事が辛いと悩んでいる若い方にメッセージを送るとしたら、どんな言葉をかけますか?
【柴田】
「騙されたと思って、まずは一年続けてみよう」と。
今の若い子は判断が早くて、少しでも嫌だとすぐ辞めてしまう。でも、仕事の面白さなんて、会社から与えられるもんじゃないですよ。
【長野】
与えられるものじゃない。
【柴田】
自分で「作る」もんです。
長野さん、子供の頃やりませんでした?
通学路の白線の上だけ歩いて帰るやつ。
【長野】
やりましたね! 「ここから落ちたらサメに食べられる」とか勝手にルール決めて(笑)。
【柴田】
それです、それ! あの感覚です。
ただ歩くだけの退屈な帰り道も、自分で勝手にルールを決めた瞬間、ゲームに変わるじゃないですか。仕事もあれと全く一緒なんですよ。
【長野】
仕事をゲーム化するということですか。
【柴田】
そうです。例えば、毎日何枚も敷く布団。ただの作業だと思ったら地獄ですけど、「昨日は五分かかったけど、今日は四分台で完璧に敷いてみせる」ってミッションを自分で作るんです。
そうやって視点を少し変えるだけで、しんどい肉体労働も、自分だけのゲームになる。
【長野】
やらされる仕事じゃなくて、自分で遊びに変えちゃうんですね。
【柴田】
そう。どうせしんどいなら、楽しんだ方がいい。そういう「遊び心」を持ったタフさが必要なんです。うちは、そんな風に仕事を遊べる人間と一緒に、これからの一〇〇年を作っていきたいですね。
【編集後記】
「逃げ道だった」とあっけらかんと笑う柴田さんを見て、肩の力が抜けました。
高尚なビジョンや綺麗な言葉じゃなく、「楽しいからやる」「悔しいから見返す」。そんな人間臭い動機で動いているからこそ、この人の言葉は信用できるし、人が集まってくるんだと思います。
「仕事がつまらない」と嘆く前に、自分で白線を引いてみる。
その発想ひとつで、明日の景色は変わるのかもしれません。
【Guest Profile】
柴田 良馬(しばた りょうま)
兵庫県城崎温泉「但馬屋」四代目主人。
高校卒業後、アメリカ・ネバダ州立大学へ留学しホテル経営を学ぶ。ラスベガスの旅行会社勤務を経て帰国。「伝統を守るために変わる」をモットーに、城崎温泉の魅力を発信し続けている。
【interviewer】
長野 憲次 元プロボクサー/株式会社アスリート式 代表取締役 「戦う経営者図鑑」編集長。リングという極限の場所で培った精神力をビジネスに転換し、現在は経営者へのインタビューやブランディング支援を行う。



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