イエづくりだけではなく、風景をつくれ。北海道の工務店が描く「100年後の未来」
- nagano
- 1月17日
- 読了時間: 6分

北海道・浦河町。 競走馬と昆布が名産のこの町で、単なる「家づくり」を超え、「風景づくり」と「人の幸せ」を追求する建設会社があります。
有限会社 神馬建設。
今回は、元プロボクサーの長野憲次が、神馬充匡(じんば みつまさ)さん(48)にインタビューします。
「自分は何を大切にして生きるのか?」
自身のキャリアに悩む若者や、組織づくりに奮闘するリーダーにこそ読んでほしい、熱い魂の対談をお届けします。
■「何のためにやってるんだ?」迷いの中で突きつけられた言葉

長野: 今日はよろしくお願いします。 神馬社長の記事や発信を拝見して、ものすごくビジョンを大切にされている方だなと、以前からファンでした。今のその熱い想いや経営スタイルは、事業を継がれた当初からあったものなんですか?
神馬: いえ、実は最初は全く違ったんです。 もともと私は、この田舎を出たくて仕方なかったんですよ(笑)。「何もない町だ」と思っていましたから。
高校卒業後は、北海道の土木会社に就職しました。就職氷河期のど真ん中で、まずは手に職をつけようと思ったんですね。 その後、千葉を拠点に関東で現場監督をしていたんですが、30歳を手前にして**「俺、何のためにこれをやってるんだろう?」**という葛藤が生まれたんです。
長野: 葛藤、ですか。大きなプロジェクトに関わっていたのに?
神馬: ええ。ある時、河川公園を作る国交省の仕事をしていました。数億円規模の大きな現場です。 そこに視察に来た国交省の偉い人が、現場を見ながらポツリと言ったんです。
「なんでこんな所に、こんなもの作るんだろうね」
って。
長野: えっ……発注側の人が、ですか?
神馬: そうなんです。僕らは寝る間も惜しんで、身を削って働いている。それなのに、血税を使って作る目的が誰にもわからない。 「これはもう、自分のいるべき場所じゃない」と思いました。
そんな時、年末に実家の浦河へ帰省して、地元のスナックで飲んでいたんです。そうしたら、隣にいたおじさんが僕に気づいてこう言いました。
「お前の親父は、俺が『こういう家が欲しい』と言ったら、それ以上のものを作ってくれたぞ。親父の仕事をちゃんと見ろ」
長野: すごいタイミングですね。その言葉が刺さったと。
神馬: はい。 顔の見えない公共事業ではなく、目の前のお客さんの期待を超えて喜んでもらう。 僕がやりたかったのはこれだ、と気づいて実家に戻る決意をしました。
■「巻き込まれろ」人間関係を変えた逆転の発想

長野: 神馬社長とお話ししていると、人とのご縁をすごく大切にされているのが伝わってきます。昔から社交的なタイプだったんですか?
神馬: いえいえ(笑)。高校時代は「クールな大人」に憧れて、目立たないようにしていました。小学校の頃はうるさいタイプだったんですが、近所のお姉さんに「はずかしい」と言われてからおとなしくなってしまって。
でも、建設業の世界に入ると、おとなしいままでは誰も話を聞いてくれないんです。職人さんたちにナメられてしまう。
そこで、自分を変えました。 「巻き込む」のではなく、「巻き込まれろ」という発想に切り替えたんです。
長野: 「巻き込まれろ」ですか。面白いですね。
神馬: ええ。「何やってるの? 俺にもやらせてよ」って、自分から相手の懐に飛び込んでいくんです。溶接作業でも何でも、一緒に汗をかいて、くだらない話も共有する。
そうやって相手の世界に巻き込まれていくうちに、いつの間にか相手がこちらの味方になってくれる。結果的に、周りを巻き込んでいる状態になるんです。
長野: まずは自分から与える、ということですね。GIVE&TAKEじゃなくて、GIVE&GIVE。
神馬: そうです。**「ギバー(Giver)であれ」**というのは常に意識しています。 特に地方の課題解決なんかは、見返りを求めず情報を出し惜しみしないことで、結果として良い循環が生まれますから。
■「価値観」の不一致と、人を大切にする組織づくり

長野: そこまで人を大切にする神馬社長でも、過去に人間関係や組織づくりで失敗した経験はありますか?
神馬: ありますよ。一番大きかったのは、価値観の違う人と組んでしまったことですね。
以前、地域活性化のために3人で団体を立ち上げたんですが、その中の一人がいわゆる「テイカー(Taker)」だったんです。「俺を代表にしろ」「俺を目立たせろ」と、自分の利益ばかり主張するようになってしまって。
長野: うわぁ、それはきついですね……。どう乗り越えたんですか?
神馬: 結局、道を分かつしかなかったんですが、その時に学んだのが**「価値観(バリュー)」**の重要性です。
「人として良い・悪い」ではなく、「大切にしている価値観が違う」。 そう整理することで、相手を全否定せずに離れることができました。
この経験は今の組織づくりにも活きています。うちに来るインターン生にも、最初にやるのは**「自分の価値観を見つけること」**なんです。
長野: テクニックではなく、まずは価値観だと。
神馬: はい。「自分らしく生きる」ためには、自分が何を大切にしているかを知る必要があります。
社員に対してもそうです。北海道の建設業は冬場に仕事がなくなるため、一旦離職する「季節雇用」が一般的ですが、僕はそれを廃止して**「通年雇用」**にしました。
長野: あえてコストのかかる通年雇用に?
神馬: マズローの欲求5段階説で言うと、まずは「安定欲求」を満たしてあげないと、その上の「所属欲求」や「承認欲求」には行けないからです。
「飯が食えなくなるかも」という不安を消して、初めて「この町を守りたい」「会社に貢献したい」という想いが生まれる。
そうやって社員が満たされると、そこから出てくる言葉が変わるんです。それが結果的に、最高の採用広報になっています。
■ 地域を守るために、「風景」をつくる

長野: 最後に、神馬社長が描く今後のビジョンを教えてください。
神馬: 会社としては、この地域で永続的に在り続けることです。
僕たち地域工務店は、単に「イエ」を作っているわけではありません。その家での「生活」を守り、ひいてはこの「地域」を守っているんです。僕らがいなくなれば、地域から人が離れていってしまう。
長野: 責任重大ですね。でも、だからこそやりがいがある。
神馬: そうですね。「この地域の家なら、やっぱり神馬建設だよね」と言われるような、その土地らしい家づくりを続けていきたい。
一つひとつの家が点ではなく面になり、やがてそれが「風景」になる。
一度この町を出た人が、「やっぱり良い所だな」と帰ってきたくなるような風景を、僕たちの手でつくっていきたいと思っています。
長野: 「イエづくりは風景づくり」。シビれました。 本日は熱いお話をありがとうございました!
【編集後記】
「ブランディングとは『約束』だ」と語る神馬社長。
その言葉通り、社員に対し、地域に対し、そして自分自身の人生に対して、誠実に向き合い続ける姿勢に強く心を打たれました。
人口減少が進む地方において、これほど熱い想いで「未来の風景」を描いている経営者がいる。その事実に、日本の未来への希望を感じたインタビューでした。
(取材・文:元プロボクサー長野憲次)



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