「わかることを、諦めてみよう」IPO目前社長の哲学
- 5月27日
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ギターのコード進行から始まった人生だった。中学までスポーツに打ち込んでいた少年は、ある日ふと触れた一本の弦から、音楽という無限の世界に足を踏み入れる。同じ「ドレミファソラシド」から、なぜ無数の旋律が生まれるのか。理系脳を持つ彼の知的好奇心は、音そのものより「構造」に向かった。
そして21歳。バンド仲間と二人、彼は社会へ飛び出した。
数百万円の貯金が一年で底をつき、企業間トラブルで売上はほぼゼロ。25歳で弁護士を交えた企業間争いの渦中にいた青年は、いま、IPO上場目前のテクノロジー企業の代表として、AIによるビジネスコミュニケーションの可視化・解析に挑んでいる。
株式会社Scene Live代表、磯村亮典さん。この人の歩みには、戦う経営者がいま手放してはいけない『楽しむ力』の原点がある。
高卒で起業した者同士、最初の握手
【長野】今日はよろしくお願いします。磯村さん、もうこういうインタビューはかなり慣れていらっしゃいますよね。
【磯村さん】そうですね。社長業も長いので、いろんな媒体さんに取材していただいて、慣れてきました。
【長野】磯村さん、21歳で起業されたんですよね。大学には行かずに。
【磯村さん】はい、高卒で起業しました。
【長野】実は僕も高卒なんですよ。だからこそ、磯村さんの学生時代の話、すごく聞いてみたくて。音楽をされていたんですよね。
【磯村さん】そうなんです。ただ、僕の中で音楽は趣味じゃなくて、お金を稼ぐ手段だったんですよね。レコーディングの報酬とか、ライブとかCDとか。学生時代から、どうやって音楽で生計を立てるかをずっと考えていました。
【長野】高校生でそこまで考えてるって、相当ですよ。
【磯村さん】『自分の生きる道を早く決められる人間がかっこいい』って、当時の僕は本気で思ってたんですよ。だから、音楽で生きると決めた自分が、自分の中ではかっこよかった。
中学までサッカーや水泳で汗を流していた少年が、なぜ音楽に転向したのか。きっかけは家にあった一本のギターだった。
【磯村さん】コードを覚えていくうちに、これ、曲が作れるなって気づいたんです。それで、演奏よりも『曲を作ること』に夢中になっていって。
【長野】作曲。
【磯村さん】僕、脳みそが理系で、数学が得意なんですよ。だから音楽理論の構造的な部分にすごく惹かれて。同じドレミファソラシドから、無限に曲が生まれるっていう、その仕組みが面白くて仕方なかった。歌詞と音の『色』をマッチングさせていく感覚も、たまらなく好きでした。
このとき培われた「構造を分析する眼」が、のちに彼を経営者として、そしてプロダクト開発者として支えていくことになる。本人も、楽曲を分析する視点が、いまの分析眼の原点だと振り返っている。
数百万円の貯金が、一年で消えた
【長野】そこから、起業まではどう繋がっていくんですか。
【磯村さん】高校を出てから、しばらくはバンドをやりながら居酒屋でアルバイトをしていたんです。それで、20歳の頃にバンドを解散して。コールセンターで営業のバイトを始めたら、これが、自分でもびっくりするくらい数日で『あ、僕、営業のセンスあるわ』って気づいたんですよ。
【長野】数日でですか。
【磯村さん】はい。そのときに、いまの専務、当時バンド仲間で1歳上の人間と『音楽レーベルでも立ち上げるか』みたいな話をしてたんですけど、ふと『あれ、音楽じゃなくても稼げるじゃん』って気づいて。それで二人で、21歳のときに屋号で会社をスタートさせたんです。
【長野】二人で、ゼロからのスタート。
【磯村さん】最初は、フリーランスの営業マンみたいな形でしたね。ただ、これが本当にきつかった。二人合わせて数百万あった貯金が、一年で底をつきました。
【長野】一年で?
【磯村さん】21歳と22歳の若造で、しかも屋号ですから。取引条件がもう、どうしようもなく不利になるんですよ。年齢と肩書きで、もう最初から土俵が違うんです。
それでも彼は、一年後に「もう一段上げればいける」と踏ん切りをつけ、株式会社化に踏み切る。得意分野だったコールセンター事業に再注力するなかで、彼の発想は『売る側』から『ツールを作る側』へと一気に飛んだ。
【磯村さん】メーカーになろうって決めたんです。それで、自分でプログラミング言語を独学して、コールセンターシステムを作りました。
【長野】独学でですか。社長自ら。
【磯村さん】そうですね。ちょうどその頃、業界全体で全通話録音が推奨される流れが来ていて、クラウド型の録音システムが追い風に乗りました。一年目から売上が立ったんですよ。
25歳、裁判の渦中で『楽しもう』と決めた
順風満帆に見えた事業に、影が差したのは創業3年目から4年目のことだった。
【磯村さん】ここでは詳しく言えないのですが、対企業で裁判を起こさなければいけなくなりまして。売上的にも厳しい状況に陥った時がありました。
【長野】それは……25歳くらいですよね。
【磯村さん】25歳ですね。
【長野】25歳で、弁護士を立てた企業間争いの真っ只中。普通じゃないですよ、その経験は。
【磯村さん】そうなんですよ。実は、その渦中で僕、こう思ったんです。『25歳で弁護士交えた企業間争いを経験できる人間って、世の中にどれだけいるんだろう』って。これ、めちゃくちゃ貴重な経験じゃんって。
【長野】そこで、視点が反転したんですね。
【磯村さん】それで『この経験自体を楽しもう』って。そう決めた瞬間、空気が変わりました。本当に変わったんです。そこから、急速に状況が好転していった。
逆境のさなかで彼が掴んだのは、声を荒らげるでも歯を食いしばるでもない、『楽しむ』という静かな選択だった。彼にとって専務の存在は、その選択を支える土台でもあった。
【磯村さん】専務は、僕にとってのトラップカード的存在なんですよ。NARUTOで言うと、白眼の唯一の死角を守ってくれる人。僕が攻めて全体を推進するタイプで、彼は守って、リスクを潰す側。プライベートでの相性は真逆で、平常時はぶつかることも多いんですけど、事業上は絶妙なバランスが取れている。懐刀ですね。
30分の音声から700象限。AIが、人を見る目を書き換える
そうして潜り抜けた逆境の先に、いま彼が掲げる旗が『bq-Recruit(ビーキューリクルート)』だ。今年5月にリリースされたばかりの、bqシリーズ第一弾である。
【磯村さん】コミュニケーション能力の可視化に、僕らはずっと着目してきたんです。これまで『lisnavi(リスナビ)』っていうアウトバウンドコールシステムや『OSORA』っていうインバウンド側のシステムで、コールセンターや営業の現場のデータを蓄積してきた。そこで培ったノウハウと、人の能力を最も問われる『採用領域』を掛け合わせたのが『bq-Recruit』ですね。
【長野】具体的には、どう使うんですか。
【磯村さん】面接の瞬間に使ってもらうものです。ただ音声で能力を測るだけじゃつまらないので、AIライブアシストを強めに搭載していて。面接中にリアルタイムで質問をサジェストしたり、『この話、もっと深掘った方がいいよ』っていうポイントを提示したり。求職者のニーズも可視化されるんです。この人はお金を重視しているのか、働き方なのか、人間関係なのか、画面に出てきます。
【長野】それ、面接の聞き漏らし、なくなりますね。
【磯村さん】ありますよね、聞き漏らし。入社してから『そんな話、聞いてた?』みたいなこと。例えば広報で採用したのに『私、顔出しNGなんです』って後から言われたら、聞いておけばよかったってなる。
実際、これはテスト導入してくれた企業さんから出てきたリアルな声なんですよ。だから職種ごとに機械学習させて、その職種で聞くべきことを、自然な会話の流れの中でコントロールしてくれる仕組みにしました。
採用以外での領域の構想も、すでに動いている。
【磯村さん】『bq』というのは、あらゆる領域で使われていく前提のコンセプトなんです。だから採用の次は、ミーティングやセールス、コンサルティングへと展開していく予定です。
【長野】ミーティング、確かに発想が面白いですよね。
【磯村さん】会議中ってパソコン開いて議事録取ったりレコーディングしたりするじゃないですか。でもあれ、基本的に『あとで見る』ためのものなんですよね。後で文字起こしして、タスク化して、報連相のために使う。これ、もったいないなって。
【長野】その瞬間に、出ればいい。
【磯村さん】そうなんです。要約も、共通認識も、『この人はこの議題に反対意見を持ってるよ』みたいなことも、リアルタイムで可視化された状態で会議を進められる。あとで議事録を確認して『あれ、決まってなかったね』ってなる無駄が消えるんですよ。
アフターの仕事を減らすための議事録じゃなくて、会議の質そのものを高めるための議事録。発想を逆転させたんです。
【磯村さん】コミュニケーションの心理学って、たとえばMBTIだと16象限に人を分類するじゃないですか。僕らは、30分の音声を、700象限に分けるんです。
【長野】16対700。
【磯村さん】桁が違いますよね。これはAIが生まれて、活用できるようになったからこそ可能になったことで。今まで考えられてきた心理学の定義そのものが、AIによって大きく変わると思っているんです。恋愛心理学みたいな領域でも、『この人とこの人は相性がいい』みたいなことが、もっと精密にわかる日が、そう遠くないと思います。
ミッションは『新しい基準を作ること』
そして今年、磯村さんは会社をIPOへと導く。ただし、上場はゴールではない。
【磯村さん】IPOを目指すのは、内部的にはもう決まっています。ただ、僕らの目標はそこだけじゃなくて、ミッションとして掲げているのは『“新しい基準 ━ New Standard” を創出し、社会の不合理をなくす。』ということなんです。
【長野】新しい基準を作る。
【磯村さん】はい。市場を独占したいわけじゃないんですよ。コールセンターや営業の業界って、迷惑電話とか押し売りで悪いイメージがついてしまっている。僕らは『lisnavi』みたいに、いっぱい電話するツールを売ってきた人間ですから、ある意味で最大の武器商人なんですよ。だからこそ、業界を健全化させる責任があると思っているんです。
【長野】武器商人としての自覚。
【磯村さん】僕らが掲げているのが『ビジネスにフェアネスを』という言葉なんです。営業って、本当はめちゃくちゃ高尚な職業なんですよ。相手のニーズや気持ちを読んで、テクニックを使い分けて、人に物を気持ちよく買ってもらう。
すごいセンスのいる仕事です。でも世間のイメージは違う。だから、営業マンっていう存在が、いつか『憧れ』として認識される日が来たらいいなって、本気で思ってるんです。
笑える職場でなければ、長く働けない
【磯村さん】僕、面接はしないんです。直下のメンバー以外は基本的に。面接には向いてないので、現場に任せるようにしています。
【長野】自覚的なんですね。
【磯村さん】ただ会社としては、真っ白で純粋な人に来てほしいですね。プロダクトの方向性に共感して、『できる方を考えよう』って思ってくれる人。『ここで一旗上げてやろう』っていう野心型より、ゆったり共感ベースで動ける人の方が向いていると思います。あと、会議には絶対ひと笑い入れようぜっていうルールがあって。
【長野】ひと笑い、ルールなんですね。
【磯村さん】ワークライフバランスじゃなくて、ワークはライフの一部、インクルードされている。だから笑える職場じゃないと、微妙ですよね。数字のミスや失敗には真摯に向き合いつつ、楽しむ心は絶対に忘れないこと。これが、Scene Liveの空気感です。
「わかることを、諦めてみては」
最後に、長野は問いかけた。人生に迷っている人へ、何かメッセージはありますかと。
【磯村さん】そうですね。もし、いま自分が何をしたいかわかっていない人がいるのであれば、『わかることを諦めてみては』と伝えたいです。
【長野】わかることを、諦める。
【磯村さん】わかる日が来るために考えるとか、わかるために学ぶって、もう自然にやっていると思うんですよ。やった上でわかっていないなら、無理にわかろうとしないこと。深く考えすぎると、良くない方向に行くので。だから、仲間を頼ればいい。
わからないときのために、日頃からいろんな人を仲間にしていく作業が、人生で一番大事だと思っています。
論理と直感、構造と感情、攻めと守り。相反するものを抱えながら、磯村亮典という経営者は、軽やかに笑い続けている。
編集後記
正直、磯村さんと話していて何度も『この人、本物だな』と思いました。
21歳での起業、貯金が底をつく日々、25歳での裁判沙汰。一つひとつが、若い経営者にとっては立ち止まる理由として十分すぎるはずです。
でも磯村さんは、その渦中で『楽しもう』と決めた。それも、強がりじゃなく、本気で『これは貴重な経験だ』と捉え直すことで。
僕自身、ボクシングのリングで何度も追い込まれた経験がありますけど、追い込まれた瞬間にどこを向くかで、その後の景色は全然違ってくる。磯村さんの『楽しむ力』は、まさにその、世界が一変する一瞬の選び方だと感じました。
そしてもう一つ、心に残ったのは『わかることを諦めてみては』という言葉。これは投げやりじゃなく、仲間を信じるという覚悟の言葉です。一人で背負いすぎている経営者ほど、この言葉の重さがわかるはずです。
戦っているすべての経営者の皆さんへ。わからない夜があっていい。隣にいる仲間を、もう一度信じてみてください。磯村さんが歩んだ道は、その先に確かな景色があることを教えてくれます。
プロフィール
ゲスト:磯村 亮典(いそむら あきのり) 1987年、兵庫県宝塚市生まれ。株式会社Scene Live 代表取締役社長。音楽の専門学校を経てバンド活動を行ったのち、2008年に通信系ベンチャー企業のテレマーケティング部門でマネジャーを務める。
2010年に営業組織としてScene Liveを創業、2011年にIT事業へと転換し株式会社Scene Liveを設立。アウトバウンドコールシステム『lisnavi』は累計導入2,700社を超え(※2026年2月時点)、アウトバウンド専用コールセンターシステムとして、累計導入社数No.1を誇る(※1)。2026年5月、AIライブアシストを搭載した新プロダクト『bq-Recruit』をリリース。今年中のIPO上場を視野に入れる。Purposeは『ビジネスにフェアネスを』。
インタビュアー:長野 憲次(ながの けんじ) 株式会社アスリート式 代表取締役。元プロボクサー。リング上で培った勝負勘と、戦う者だけが知る孤独への共感を武器に、『戦う経営者図鑑』をプロデュース。経営者の本音とビジョンを引き出すインタビュアーとしても活動。
※1:調査概要は以下の通り。【調査方法】実数調査 【調査期間】2024年2月21日(水)〜3月26日(火) 【調査概要】「アウトバウンド専用コールセンターシステム」を対象にしたデスクリサーチ及びヒアリング調査 【比較対象企業】「アウトバウンド専用コールセンターシステム」運営企業10社 【調査実施】株式会社エクスクリエ 【対象サービス】lisnavi(旧:List Navigator.)



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