「崖っぷちなら、知恵が出る」元教師・リーマンショックでの解雇を乗り越えた、IT指揮官が語る逆境突破論
- 2月26日
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「崖っぷちなら、知恵が出る」元教師・リーマンショックでの解雇を乗り越えた、IT指揮官が語る逆境突破論
株式会社アプリンクの代表、金代承氏(キム・テスン)
彼は現在、社員に「完全な自由」を与えるフルリモートのIT企業を経営し、自身も世界を飛び回りながら仕事をしている。一見、順風満帆な成功者に見える彼だが、そのキャリアは決してエリート街道を歩んできたわけではない。
「国語の授業で『作者の気持ち』がわからずに怒られた」という型破りな幼少期。14年間の教師生活を経て30代後半でIT業界へ転身するも、直面したのはリーマンショックによる解雇、そして独立後に味わった信頼していた後輩の裏切りだった。
「人間、崖っぷちになったら火事場の馬鹿力が出るんです」
そう笑い飛ばす彼の言葉には、数多の修羅場をくぐり抜けてきた男だけが持つ、圧倒的な強さと優しさがある。元プロボクサーの長野憲次が、その不屈のメンタリティの源泉に迫った。
教師が「LANケーブル」を自ら配線した日
【長野】 まずは金さんのルーツについてお聞かせください。今のIT企業の社長という姿からは想像できないような、かなり「尖った」少年時代だったと伺いました。
【金】 そうですね(笑)。小学校の時から宿題なんて滅多にやらなかったですし、先生に「廊下に立ってろ」と言われたら、先生が帰った後の夜までずっと立っているような子供でした。納得できないことには従わない、喧嘩っ早い性格でしたね。
【長野】 相当ですね(笑)。でも、その一方でパソコンには早くから触れていたんですよね?
【金】 ええ。1983年にファミコンが出た時、僕はすでにパソコンをやっていました。14歳の時にはプログラミングの面白さに目覚めて、「将来はゲームを作って大儲けしてやる」なんて思っていましたよ。
【長野】 そこからなぜ、学校の先生になろうと思ったんですか?
【金】 自分みたいな人間が先生になったら面白いんじゃないかと思って(笑)。実際、14年間教師をやりましたが、学校の現場でも勝手に改革を進めていました。
当時はまだインターネットが普及し始めた頃でしたが、予算がないなら自分でやろうと、パソコンを自作して、学校中のLAN工事も自分でやったんです。
【長野】 先生が自分で工事まで!? すごい行動力です。
【金】 職員会議では「ハッキングされたらどうするんだ」「生徒が変なサイトを見たらどうするんだ」と猛反対されましたよ。でも、「俺が監視するから大丈夫だ!」と言って押し切りました。
実際、エロサイトを見ていた生徒を校内放送で名指しで呼び出してやめさせたりね(笑)。
【長野】 豪快すぎます(笑)でも、生徒や保護者からは信頼されてたんじゃないですか?
【金】 どうでしょうね。でも、保護者向けにパソコン教室を開いて、お父さんたちにはネットの楽しみ方を、お母さんたちには家計簿のためのエクセルを教えたりしていました。
子供たちが休み時間にコンピュータ室を覗きに来て、親が必死に勉強している姿を見て驚いていましたよ。
38歳での挫折、そして「裏切り」からの再出発
【長野】 そんな充実した教師生活を辞めて、30代後半でITの世界に飛び込んだわけですが、順風満帆とはいかなかったそうですね。
【金】 はい。37歳で大阪に出てきてシステムエンジニアになったんですが、ちょうどリーマンショックが起きて。保険業界のSEは全員クビを切られました。
【長野】 いきなり無職ですか……。そこからどうされたんですか?
【金】 「もう自分でやるしかない」と腹を括りました。ちょうどiPhoneが出た時期だったので、これからはアプリの時代だと。スタバでMacを開いて、フリーランスとして働き始めました。食えない時期は早朝の配送バイトもやりましたよ。
【長野】 そこから会社を立ち上げられるわけですが、人間関係でのトラブルもあったとか。
【金】 かわいがっていた後輩から「一緒にやりたい」と言われて仕事を振っていたんです。でもある日突然、「子供が生まれたから辞めます」と言って消えた。
その後、僕のクライアントから連絡が来なくなって……調べてみたら、その後輩が僕のクライアントを全部持って行って独立していたんです。
【長野】 それはキツい……。いわゆる「裏切り」ですね。
【金】 まあ、ショックでしたけど、「去る者は追わず」です。裏切った人間は二度と戻ってこない。いちいち落ち込んでいても仕方がないので、すぐに切り替えました。
【長野】 その切り替えの早さはどこから来るんですか?
【金】 「配られたカードでやるしかない」という諦めにも似た覚悟ですかね。ないものはないし、できないことはできない。
人に裏切られたって、地球上には70億人も人間がいるんだから、そのうちの1人に嫌われたってどうってことないでしょう?
崖っぷちでこそ「野生の知恵」が働く
【長野】 コロナ禍も経営者にとっては大きな試練だったと思います。金さんの会社はどうでしたか?
【金】 全滅でしたね。クライアントが飲食店中心だったので、保守メンテナンス料がゼロになりました。入金がなくて、倒産した取引先もたくさんありました。
【長野】 まさに絶体絶命のピンチですね。
【金】 でもね、人間、崖っぷちになると知恵が働くんですよ。 損害賠償を請求されたこともありましたが、弁護士を雇う金も惜しいから自分で裁判をやりました。自分で証拠を揃えて、法廷で論理的に説明して、結局勝訴したり、賠償金を払わなくて済むようにしたり。
【長野】 自分で裁判まで! まさに「戦う経営者」ですね。
【金】 追い込まれると、脳の回転が速くなるんです。ピンチの時こそ、「この状況から何を得られるか?」「どうやったら得するか?」しか考えません。裁判だって、弁護士任せにせず自分でやったおかげで、法律や交渉術という新たな「武器」が手に入りましたから。
壁があるなら、壊すか、横から通ればいい

【長野】 金さんは今も、週4回のムエタイと週6回のジム通い、そして月2回の冬山登山をされているそうですね。なぜそこまで自分を追い込むんですか?
【金】 「運を動かす」と書いて「運動」だと思っているからです。
冬山のような過酷な環境に身を置くと、余計なことを考えなくなります。頂上でカップヌードルを食べる瞬間の達成感。そして下山した時には、悩んでいたことがちっぽけに思えて、頭がクリアになっているんです。
【長野】 体を動かすことが、経営判断にも生きているんですね。
最後に、今キャリアや経営で悩んでいる人たちに向けて、アドバイスをお願いします。
【金】 悩んで立ち止まるくらいなら、まずは動くことです。ずっと同じ場所で考えていても、同じ景色しか見えません。
壁にぶつかった時、多くの人は「どうやって乗り越えようか」と悩みますが、乗り越えるだけが正解じゃない。
【長野】 乗り越えるだけじゃない?
【金】 そう。壁の下をくぐってもいいし、横から回ってもいい。なんなら、壁をぶっ壊してもいい。
そのためには、自分の「武器」を持つことです。僕にとっては、子供の頃からやってきたプログラミングが武器だったし、裁判で得た知識も武器です。武器が増えれば、視点が増える。視点が増えれば、壁の突破方法はいくらでも見つかりますよ。
【長野】 「壁をぶっ壊してもいい」。その言葉に勇気をもらえる人は多いと思います。本日は熱いお話をありがとうございました!
未来への展望
金氏の視線はすでに未来を見据えている。「AIを使って社員を楽にさせたい」「社員全員が独立して、それぞれの会社を持てるようにしたい」。自身が数々の修羅場をくぐり抜けてきたからこそ、仲間には自由と強さを手渡したいと願う。
崖っぷちを「学びの場」に変え、逆境さえも楽しむ指揮官(コマンダー)。彼の戦いは、これからも軽やかに続いていく。
【編集後記】戦うあなたへ
「人間、崖っぷちなら知恵が出る」
インタビュー中、金さんが放ったこの言葉が、私のボクサー時代の記憶と重なりました。リングのコーナーに追い詰められた時、恐怖で足がすくむのか、それとも起死回生のカウンターを狙って思考を研ぎ澄ませるのか。
金さんは間違いなく後者です。
リーマンショック、裏切り、コロナ、裁判。普通なら心が折れてしまうようなパンチを何度も受けながら、彼はそれを「経験」という武器に変えてきました。
もしあなたが今、ビジネスというリングでコーナーに追い詰められているなら、金さんの言葉を思い出してください。
「配られたカードでやるしかない」
その状況を楽しめた時、あなたは目の前の壁をぶっ壊す「最強の武器」を手にしているはずです。
【Guest Profile】
金 代承(キム・テスン) 株式会社アプリンク 代表取締役
元公立学校教員。14年間の教員生活を経てIT業界へ。リーマンショックによる解雇、フリーランス時代を経て、2015年に株式会社アプリンクを設立。現在は「社員にも自分にも自由を」を掲げ、フルリモートワークを導入。広島・大阪・名古屋に拠点を持ち、自身も国内外を移動しながら経営を行う。趣味はムエタイ、ジムトレーニング、冬山登山。
【interviewer】
長野 憲次 元プロボクサー/株式会社アスリート式 代表取締役 「戦う経営者図鑑」編集長。リングという極限の場所で培った精神力をビジネスに転換し、現在は経営者へのインタビューやブランディング支援を行う。



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