「夢」で飯は食えないが「笑顔」でツキは回る。どん底を知るカリスマのロジック
- 2月25日
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群馬県高崎市。音楽が鳴り響くおしゃれなライブバー「JAM JUNCTION」のカウンターで、株式会社ザイオン代表の千 容植氏は、穏やかな笑顔でお酒を傾けていた。
現在、群馬県内で大人気の焼肉店「千味庭」や韓国居酒屋を展開し、驚異の利益率30%を叩き出す凄腕経営者。従業員には週休3日制や高水準の給与を約束し、自らは「50歳を過ぎたら好きなことしかしない」とバンド活動を謳歌している。
誰もが羨むような成功者の姿。しかし、彼がこの特等席に辿り着くまでの道のりは、決してスマートなものではなかった。 「最初の頃なんて、朝9時から夜中の1時まで休まず働いてたよ。連休なんて一度も取ったことがない」
元プロボクサー・長野憲次が、修羅場をくぐり抜けてきた男の「綺麗事抜きのリアル」に迫る。1時間半に及んだ対話の全記録。
突然の帰郷。年商12億、250人のスタッフ、そして「手書きの帳簿」
【長野】 本日はよろしくお願いします。千さん、今はこんなにおしゃれなライブバーでご自身のバンド活動を楽しみながら、複数の繁盛店を経営されていますが、昔から順風満帆だったんですか?
【千さん】 いやいや、全然ですよ。私は元々、東京の金融系会社でバリバリの営業マンをやってたんです。3年目でトップの成績を取ってね。でも、25歳の時に親父から「群馬に帰ってこい」と呼び戻されまして。
【長野】 実家のご商売を手伝うために?
【千さん】 親父が昔、年商12億、社員とアルバイト合わせて250人規模のバカでかい「健康ランド」をやってたんです。
でも、親父はゴリゴリの設備工事の職人上がり。サービス業のマネジメントなんて全くできない。現場はもうめちゃくちゃで、兄貴一人じゃどうにもならなくなって、私に回ってきた。
【長野】 25歳でいきなり250人のマネジメントですか。それはキツいですね。
【千さん】 それだけじゃないですよ。帰ってきて最初に言われたのが「今日からお前、経理を見ろ」です。引き継ぎはたった1週間。しかも、当時はパソコンではなくて、年商12億の会社の帳簿が、全部「手書き」だったんです。
【長野】 ええっ!?手書きですか!?
【千さん】 毎日売上がどうとか、経費がどうとか全部手で書いてる。「こんなことやってらんねーよ!」ってなりましたよ(笑)。
そこからですよ。簿記も労務も社会保険の仕組みも、何年もかけて全部独学で勉強しました。実戦で毎日やりながら、税理士事務所に食って掛かって。3年経つ頃には、全部一人で回せるようになってましたね。
「1000万以下の話なんて聞く耳持たない」。東京の猛者たちからの洗礼
【長野】 そこから、どうやってご自身の飲食事業を立ち上げていったんですか?
【千さん】 健康ランドって、バブルの遺産みたいなもので、老朽化の修繕費はバカにならないし、そのうち自治体が500円で入れるスーパー銭湯なんかを作り始めて、売上がどんどん落ちていったんです。
「このままじゃ先がない」と危機感を抱いて、健康ランドの施設内にあった焼肉屋のノウハウを活かして、外に「千味庭」という焼肉店を出しました。同時に、当時まだ誰も知らなかった「エレクトロニカルダーツ」の代理店になって、60坪の巨大なダーツバーも当てました。
【長野】 時代の先を読んで、次々と仕掛けていったんですね。
【千さん】一番多い時は、全国に14店舗くらい展開してました。でもね、30代半ばで全国の若手焼肉経営者の会「焼肉塾」に入った時に、強烈なカルチャーショックを受けたんです。
叙々苑とかトラジの社長が顔を出すような猛者ばかりの集まりで。
当時の私は、群馬の35坪の店で月400万〜500万売ってて「まあまあ売れてるな」と満足してたんですよ。 でも、東京の連中は、たった8坪の店で月1000万売ってた。
【長野】 8坪で1000万!?
【千さん】 もうね、奴らからしたら「月商1000万以下」の話なんて誰も聞いてくれないわけですよ。「なんだこいつら!」ってめちゃくちゃ腹が立って。
でも同時に「絶対に1000万売る店を作ってやる」と心に誓った。 そこから必死にもがいて、もがいて……結局、1000万の壁を越えるのに7年かかりました。
【長野】 7年……!そこまで諦めずに。
【千さん】 はい。でも一度売り方が分かると、次からは最初から「月商1200万売るための陣容と戦略」を組めるようになる。今では1500万、1600万売る店もあります。
飲食業界って、どんぶり勘定のバカな社長が多いんですよ。
自分がいい車に乗って遊ぶために、従業員を安月給でこき使う。私はそれが死ぬほど嫌だった。
だから、うちは各店舗の最終利益まで全てオープンにして、利益が出たらスタッフに還元する組織にしていきました。
「明るい人」に惹かれる理由。運の正体とは
【長野】 千さんのお店は離職率が異常に低いと伺いました。その秘訣は何なんですか?
【千さん】 20年前から徹底している「理念教育」です。アルバイトが入ってきたら、最初に私が2時間のセミナーをやります。 「自分の人生を幸せにするために、今日から笑顔と挨拶を磨け。自分自身の人間的成長のためにここを利用しなさい」と教えます。
「お店のためにお客様に尽くせ」なんて絶対に言いません。
【長野】 自分の幸せのために、笑顔と挨拶を。
【千さん】 長野さん、感じのいい人のことを一般的に「明るい人」、感じの悪い人を「暗い人」って言いますよね?これ、なんでだか分かりますか?
【長野】 うーん……なんででしょう。オーラがあるというか、ピカッとしてるから?
【千さん】 ここに秘密があるんです。人間は、数万年の歴史の中で「太陽の光」の元で進化してきた動物です。真っ暗な洞窟の中では生きていけない。
だから本能的に「明るいところ」を好み、「暗いところ」を恐れるようにできている。 虫が明るい電球に命懸けで突っ込んでいくのと同じです。 つまり、いい笑顔でいい挨拶をする人を、人間は本能的に「明るい(=安全で心地よい)」と定義し、そこに勝手に人が集まってくるんです。
【長野】 なるほど!生物学的な本能の話なんですね。
【千さん】 そしてここからが重要です。人間が「ツイてる」状態。この「ツキ」というものは、絶対に自分一人では発生しません。ツキ=「出会い」であり、必ず他人が運んでくるものなんです。
いい仕事、いい情報、いい縁。すべて他人が持ってくる。ということは、本能的に人が集まってくる「明るい人(=笑顔と挨拶ができる人)」になれば、出会いが増え、必然的にツキが回ってくる確率が爆発的に上がるんです。
【長野】 めちゃくちゃ腑に落ちました……。
【千さん】 これを10代、20代のアルバイトに本気で教えるんです。「学校じゃ教えてくれないぞ。早く気づいた者勝ちだぞ」って。これを理解した子は、次の日から目つきが変わって、自発的に最高の笑顔で働き始めます。
だからうちは、社員が1店舗に1〜2人しかいなくても、アルバイトの力だけで月商1600万を叩き出せるんです。
コロナ禍で月1000万の赤字。地獄の底で見えた「これからの飲食業」
【長野】 そんな強固な組織を作られてきた千さんでも、数年前のコロナ禍はやはりキツかったですか?
【千さん】 あの時は本当に「あ、もうこれダメかもしれない」と思いましたよ。毎月1000万ずつお金がキャッシュアウトしていくんですから。もがいてもがいて、弁当売ったりしましたけど、焼け石に水。14店舗あったお店も、半分閉めました。
【長野】 まさにボクシングで言えば、サンドバッグ状態ですよね……。そこからどうやってV字回復を?
【千さん】 昔は「当たる業態」を探せば、後からいくらでも人が集まってきました。でも今は違う。「若者が働きたくなる業態」を作らないと、人は絶対に来ないんです。
だからコロナの真っ只中に、新大久保にあるような最先端のおしゃれな「韓国居酒屋」を、あえて群馬の駅前にドーンと出しました。
【長野】 コロナの真っ只中に!?すごい挑戦ですね。
【千さん】 そうしたら、求人に10代、20代の若い女の子が100人くらい殺到したんです。オープンしてみたら、毎日20組待ち。
25坪、客単価2800円の店なのに、初月で600万売れました。
私と社員の2人で回してて、本当にヘトヘトで死にそうになりましたよ(笑)。 結局、時代に合わせてアジャスト(適応)していくしかないんです。
「仕事に夢なんか求めるな。お前が仕事に合わせろ」
【長野】 最後に、今のキャリアに悩んでいる若者や、「自分に向いている仕事が分からない」と立ち止まっている人に向けてメッセージをお願いします。
【千さん】 ちょっとドライに聞こえるかもしれないけど……「仕事なんて何でもいいんだよ」って言いたいですね。
【長野】 何でもいい、ですか。
【千さん】 向いてる、向いてないなんて考える前に、目の前のことを一回がむしゃらにやってみろと。 私は、仕事に夢なんか感じていません。
仕事はあくまで、家族や従業員に金銭的な安定を与えるための「手段」です。だから、稼げるなら飲食じゃなくても何でもよかった。
【長野】 すごく現実的で、ある意味で潔いですね。
【千さん】 やりたいことや夢があるなら、仕事で稼いだお金を使って、プライベートでやればいいんです。「自分に合う仕事がない」なんて甘ったれたこと言ってないで、自分を仕事に合わせるんだよ。
その世界で一回、本気で頭(トップ)を取ってみろと。 私が今、50歳を過ぎて好きなことだけして生きられているのは、もちろん仕事もしてますよ?笑、でも20代から40代まで、冗談抜きで普通のサラリーマンの倍以上、泥水をすする思いで働いてきたからです。
一生懸命やったことのないやつに限って、御託を並べる。 まずは死に物狂いでやってみること。本気でやって結果が出た時、初めてその仕事の「本当の醍醐味」が分かるんだから。
【長野】 圧倒されました。本気の人間が発する言葉の重み、今の読者に絶対に刺さると思います。今日は本当にありがとうございました!
【編集後記】戦うあなたへ
「仕事なんて何でもいい。お前が合わせろ」 千さんのこの言葉は、一見すると冷徹に聞こえるかもしれない。しかし、インタビューを終えた私の心に残ったのは、「優しさ」だった。
手書きの帳簿に絶望した日々。毎月1000万円が消えていくコロナ禍の恐怖。彼は決して「ただ運が良かった」から今この場所にいるのではない。 誰よりも理不尽と戦い、逃げずに現実と向き合い、自分自身を環境に「アジャスト」させ続けてきた結果なのだ。
ボクシングの世界でも同じだ。相手のパンチが痛いからとリングを降りる人間に、チャンピオンベルトは永遠に巻かれない。「自分に合う相手」を探すのではなく、目の前の強敵に自分を合わせ、血反吐を吐きながらでも勝つための練習をするしかない。
もしあなたが今、「これは自分の本当にやりたいことじゃない」と言い訳をして立ち止まっているなら、どうか思い出してほしい。 あなたが目の前の仕事から逃げず、がむしゃらに振り抜いた先にだけ、本当の「やりがい」と「ツキ」が待っているのだ。
【Guest Profile】 千 容植(セン ヨウシ) 株式会社ザイオン 代表取締役 群馬県高崎市を中心に「焼肉 千味庭」や韓国居酒屋など、地域密着型の人気飲食店を展開。「笑顔と挨拶」を基盤とし、生物学的根拠に基づいた独自の理念教育で、離職率の極めて低い強靭な組織を構築。コロナ禍での月1000万円の赤字という絶望からV字回復を成し遂げ、現在は自身のライブバー「JAM JUNCTION」でバンドのボーカルを務めるなど、仕事と遊びを全力で体現するカリスマ経営者。
【Interviewer】 長野 憲次 株式会社アスリート式 代表取締役 / 元プロボクサー 24歳でプロボクサーを引退後、ビジネスの世界へ。採用支援やPR事業を展開。「戦う経営者図鑑」を通じて、経営者の本音と泥臭い魅力を世に発信し続けている。



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