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「乗客でいるな、自らオールを漕げ」元商社エリートが泥臭く挑んだ、中小企業再生の10年物語

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誰もが羨む大手総合商社でのキャリアを捨て、彼女はなぜ「孤独な戦い」を選んだのか。



株式会社竹中製作所、代表取締役社長・竹中佐江子氏。


90年の歴史を持つ老舗ボルトメーカーのトップとして、中東への工場進出や独自のコーティング技術「タケコート」を武器に世界と戦う彼女だが、その道のりは決して平坦ではなかった。



「お前は何もわかっていない」「よそ者が偉そうに」



社長就任当初、彼女を待っていたのは社員たちとの深い溝と冷ややかな視線だった。


エリート街道から一転、職人たちの反発に晒されながらも、組織の体質改善に挑み続けた一人の経営者の「覚悟」と「再生」の物語。



インタビュアー:元プロボクサー 長野憲次


「女性だから」は言い訳


【長野】

ご無沙汰しております。竹中さんといえば、製造業という男性社会の中で闘う「女性リーダー」の筆頭というイメージがあります。実際、ご苦労も多いのではないですか?


【竹中】

その質問、よく受けるんですけど……正直あまり好きじゃないんです。経営者という仕事をする上で、男女が関係あるのかなって。


確かに製造業の女性社長は少ないですよ。現場は力仕事もあるし、社員の7割は男性。でも、「女性だからこれができなかった」と思ったことは一度もないんです。


【長野】

一度も、ですか。それはすごい。


【竹中】

逆にそれを言う女性がいたら、「あなたはそこに甘えてるんじゃないの?」と思いますね。


もちろん、30トンの鉄を持ち上げるような物理的なことはできませんよ。でも、経営者として本来やるべき仕事に性別は関係ない。もし「女性だからやりにくい」と言い訳する人がいれば、それは男とか女とか言う前に、経営者としての覚悟が足りないんじゃないかと思います。


【長野】

厳しいけれど、本質的な言葉ですね。海外に目を向ければ女性リーダーはたくさんいる。日本特有の「思い込み」がブレーキをかけているのかもしれません。



「ただの下請けではない」大手企業が頼る技術力




【長野】

竹中製作所さんの「強み」について改めてお聞きしたいのですが、外から見ていると歴史ある安定した企業というイメージです。でも実際は、かなり攻めたビジネスをされていますよね?


【竹中】

そうなんです。私が戻ってきて改めて感じたのは、うちの会社のポテンシャルの高さでした。


通常、私たちのような従業員150名規模のネジ・ボルト業界の会社は、問屋さんを通して納品する「下請け」が一般的です。でもうちは、日本を代表する上場企業と、直接取引(ティアワン)をしているんです。


【長野】

間に商社を挟まず、直取引ですか。それは利益率も高そうですが、何より信頼がないとできないことですよね。


【竹中】

そうです。だから、先方の設計者の方が「こういう環境で使うなら、どの製品がいいかな?」と直接相談に来てくれるんです。


それに、うちには「タケコート」という独自の防錆コーティング技術があります。競合がほとんどいないので、価格競争に巻き込まれず、こちらの言い値で勝負ができる。


中東(UAE)にも工場を出していますが、世界と対等に渡り合える技術と環境があるというのは、エンジニアにとってこの上ない財産だと思います。



「ここは住友商事ちゃうで」


【長野】

それだけのポテンシャルがある会社に、竹中さんは大手商社(住友商事)での経験を引っ提げて戻られた。最初はスムーズに改革が進んだんじゃないですか?


【竹中】

いえいえ、とんでもない。最初は完全に「よそ者」扱いですよ(笑)。


私は住友商事という、京大や阪大を出たエリートたちが理論的に動く世界にいました。その感覚のまま戻ってきて、「こうあるべきだ」と正論を振りかざしてしまったんです。


【長野】

現場の反発があったわけですね。


【竹中】

社員からすれば、「社長の娘が急に来て、現場も知らんのに偉そうに」って映るわけです。「ここは住友商事ちゃうで」という冷ややかな声も聞こえてきました。


当時は会議をしても、シーンとして誰も発言しなかったんです。「質問して仕事を増やされたくない」「出る杭は打たれる」という文化が染み付いていて。


私が一人で熱くなって「なんでわかってくれへんの!」とイライラし、社員は「うざいな」と心を閉ざす。お互いに拒絶反応を起こしていた時期が、最初の2、3年は続きましたね。


【長野】

その冷え切った関係を、どうやって溶かしていったんですか?


【竹中】

「急がば回れ」だと気づいたんです。


いきなり組織全体を変えるのは無理です。だから、10人、15人の小単位で社員を集めて、とにかく話を聞く「懇話会」を地道に続けました。


一方的に方針を伝えるのではなく、「あなたはどう思う?」と問い続ける。これを何年も繰り返して、ようやくここ7、8年で言葉が通じ合うようになってきたんです。



人を蹴落とす人間は採用しない


【長野】

10年かけて土壌を作ってこられたんですね。今の竹中製作所は、どんな社風なんでしょうか?


【竹中】

手前味噌ですけど、「人間がいい人」が多いのが自慢です。


うちは過去に、人間関係のトラブルやいじめ、モラハラで辞めた人は一人もいないと思います。もちろん、給与や休みなどの条件面で転職する人はいますが、「居心地が悪くて辞める」というケースはほぼゼロです。


【長野】

確かに以前、私が御社にお伺いした時、その雰囲気の良さは感じました。

意図的にそういう組織を作っているんですか?


【竹中】

採用の時点でかなり見ていますからね。

いくら優秀でも、人を蹴落としてまで自分が上がりたいというタイプや、意地悪な人は採りません。


面接では「これから何をしたいか」よりも「過去に何をしてきたか」を徹底的に掘り下げます。「未来」の話はいくらでも作文できますけど、「過去」の苦労話や失敗談にはその人の人間性が嘘偽りなく出ますから。


【長野】

能力よりも、まずは「素直さ」や「人間性」を見ていると。


【竹中】

そうです。少し不器用でも、素直に本当のことを言える人がいい。そういうベースがあるから、心理的安全性の高い組織が維持できているんだと思います。



「乗客」でいるな、自らオールを漕げ


【長野】

最後に、これからどんな人と一緒に働きたいですか?


【竹中】

今、社員に伝えているのは、「あなたたちは竹中製作所という電車の『乗客』じゃない」ということです。


ただ乗っているだけで目的地に着くと思ったら大間違い。自分たちで船を漕がないと進まないんです。会社は経営者のものじゃなく、社員みんなのもの。


だから、待遇を良くしたいなら、自分たちで会社を良くする意見を出してくれ、と伝えています。


【長野】

「自分事」として捉えてほしいと。


【竹中】

そうです。失敗してもいいんです。言われた通りに動くロボットはいらない。


「自分はこう思うからこうしました」と言って失敗するなら、それは次に繋がるチャンスです。そういう主体的なチャレンジャーには、どんどん機会を与えたいと思っています。


【長野】

迷っている若者に向けて、一言お願いします。


【竹中】

「何でもいいから、一回やってみたらええねん」って思いますね。

やる前から理屈ばかりこねて動かない人が多すぎる。もし合わなかったら辞めてもいい。まずは泥臭く経験してみることです。


そしてもし、本気で挑戦したいなら、竹中製作所に来てください。


竹中製作所 新社屋
竹中製作所 新社屋

【編集後記】戦うあなたへ


「女性だから」「環境が違うから」。

私たちが行動を起こさない時、そこにはいつも「もっともらしい言い訳」が存在する。


しかし、竹中さんはその全てを「甘え」と断ち切り、アウェーな環境の中で10年間、泥臭い戦いを止めなかった。


彼女の強さは、エリート商社マンとしての知見ではなく、「わかってもらえない」という孤独から逃げなかった胆力にあるのだと思う。


今、あなたが組織の中で孤独を感じているなら。周りが誰も理解してくれないと嘆いているなら。


それはあなたが、誰よりも先に「変革のオール」を握っている証拠かもしれない。


その孤独は、未来を変えるための筋肉痛だ。

恐れずに、漕ぎ続けてください。





【Guest Profile】

竹中 佐江子(たけなか さえこ)

株式会社竹中製作所 代表取締役社長。

大学卒業後、住友商事に入社し15年間勤務。2009年に家業である竹中製作所に入社。経理、人事、営業を経て2016年に社長就任。独自の防錆技術「タケコート」や中東への工場展開など、グローバルな視点で製造業の改革を続ける経営者。


【interviewer】

長野 憲次 元プロボクサー/株式会社アスリート式 代表取締役 「戦う経営者図鑑」編集長。リングという極限の場所で培った精神力をビジネスに転換し、現在は経営者へのインタビューやブランディング支援を行っている。


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