誰も通らぬ道にこそ、勝機がある。世界を繋ぐリユースの革命児が語る「商いの本質」
- 6月12日
- 読了時間: 8分

流通業界のトップ企業20社のうち、実に14社が利用するリユース向けシステム。今や業界の巨大なインフラを担う株式会社ワサビだが、大久保裕史代表の原点は、意外にも「路上の商い」にあった。
テキヤから始まり、数々の事業を立ち上げ、時には数百万の損失を自ら背負いながら、彼はなぜ誰も通らないイバラの道を選び続けるのか。元プロボクサーの長野憲次が、綺麗事だけでは生き残れないリアルな経営哲学の真髄に迫る。
ビジョンなき20代。「稼ぐ」ことの熱狂と違和感
【長野】 大久保社長、本日はよろしくお願いします。現在、リユース業界で圧倒的なシェアを持つシステムを展開されていますが、22歳で起業された当初は、今とは全く違う事業をされていたと伺いました。
【大久保さん】 よろしくお願いします。そうですね、今のような「社会課題を解決する」みたいな立派なビジョンは、当時の私には全くありませんでした。学生時代も本当に勉強せずに、テキヤのアルバイトやフリーマーケットで小銭を稼ぐような毎日で。
【長野】 路上で直接モノを売る、まさに商売の原点ですね。そこから就職ではなく、起業の道を選ばれた。
【大久保さん】 自分の能力が会社員として発揮できる気がしなかったんです。それで22歳で起業して、携帯ショップを5店舗やったり、自分が飲みに行くのが好きだからという理由で飲食店をやったりしていました。
【長野】 非常に多角的に展開されていたんですね。
【大久保さん】 聞こえはいいですが、根底にあったのはただ「お金儲けへの意欲」だけです。どうやったら効率よく稼げるか、そればかり考えていました。自分の力でお金を生み出し、回していくこと自体が楽しくて仕方がなかった20代でしたね。
【長野】 ボクシングでも、最初はただ「目立ちたい」「喧嘩に勝ちたい」という衝動だけでリングに上がる選手は多いです。でも、それだけだとどこかで壁にぶつかる。大久保社長の中で、その「稼ぐだけの商売」からマインドが変わる瞬間はあったのでしょうか。
【大久保さん】 前の会社で初めて役員を経験した時です。それまでは自分のために稼いでいましたが、組織の中で「やりがいを持って、人のために働く」という感覚を初めて知りました。事業を成長させ、社会に価値を提供する面白さに気づいたんです。
安定を蹴り飛ばす。ゼロからのシステム開発
【長野】 そこで役員として会社を大きくしていく道もあったはずですが、なぜ自ら独立し、全く新しいシステム開発というハードな道を選んだのですか?
【大久保さん】 会社が儲かって安定してくると、当時の社長は「現状維持」を望むようになったんです。でも、私はもっと上を目指したかった。だから独立を決めました。
【長野】 現状維持への反発ですね。とはいえ、全くゼロからのシステム開発は、相当な体力を削られるのではないですか。
【大久保さん】 おっしゃる通りです。立ち上げ当初は、コンサルティング業務で日銭を稼いで、その資金を全て今のシステムの開発投資に回していました。
【長野】 自分の時間を、すぐにお金になるサービスから、いつ完成するかもわからないシステム開発に全振りする。これは経営者として相当な恐怖があったはずです。
【大久保さん】 一番しんどかった時期ですね。資金的にも精神的にも削られました。でも、誰もやりたがらない複雑なシステムだからこそ、一度作り上げてしまえば、それが圧倒的な参入障壁になるという確信だけはありました。
数百万の自腹補填。誰もやりたがらない「泥水」をすする覚悟
【長野】 誰もやりたがらない複雑なシステム、というのは具体的にどういうことなのでしょうか。
【大久保さん】 私たちがやっているのは、複数のECモール間を繋ぐ在庫連動システムです。モールの仕様は頻繁に変わりますし、繋ぎ込みには泥臭い作業が山のように発生します。大手のIT企業は、こういう面倒でクレームになりやすい領域には手を出したがりません。雇われ社長なら、リスクを恐れて絶対にやらないでしょうね。
【長野】 なるほど。リスクを負える創業者だからこそ踏み込めた領域だと。開発の過程では、当然トラブルも起きますよね。
【大久保さん】 ええ、ありましたよ。例えば、エンジニアが良かれと思ってやった作業が原因で、お客様のモールのアカウントが止まってしまったことがありました。その結果、数百万単位の売上補填を私が自腹で払ったこともあります。
【長野】 数百万ですか。規約上は、そこまでシステム会社が保証する義務はないケースが多いですよね?
【大久保さん】 義務はありません。でも、お客様からすれば、誰の責任であれ「商売が止まること」が最大の痛手なんです。ここで逃げたら、我々の存在価値はない。だから全額補填しました。
【長野】 理不尽な思いや、エンジニアに対する怒りは湧かなかったですか?
【大久保さん】 ミスに対して感情で怒っても全く意味がありません。起きてしまったことはトップが責任を取り、あとは「次に起こらないように仕組みで改善する」だけです。
そうやって一つ一つのトラブルから逃げずにやってきたからこそ、他のプラットフォームが繋いでいない部分を独自に構築でき、独占的なポジションを築けたんだと思います。
人と同じことはしない。リユースで世界を繋ぐ未来
【長野】 目先の数百万を失ってでも、「逃げない」という信頼を獲得したのですね。今や業界のインフラとなったワサビですが、大久保社長は今後、この会社をどこへ向かわせようとしているのでしょうか。
【大久保さん】 目指しているのは「世界一の流通支援企業」です。日本国内だけでなく、ミャンマーやベトナム、タイといった海外展開もすでに精力的に進めています。
【長野】 グローバル展開ですか。なぜそこまで事業を拡大し続けるのでしょうか。
【大久保さん】 22歳の頃はただのお金儲けでしたが、今は「社会に応援されるビジネスかどうか」しか考えていないからです。リユースという文化は、これからの世界に絶対に必要になる。
我々のシステムが世界中に広がることで、モノの循環がスムーズになり、無駄がなくなる。
【長野】 かつての「自分が稼げればいい」というフェーズから完全に抜け出しているのを感じます。
【大久保さん】 そうかもしれないですね。我々の会社がなくなったら困る人たちがいます。業界のインフラとして、ワサビが止まれば流通が止まる。その重圧と責任感が、今の私を突き動かしています。
しんどい時は成長している時。次世代の戦う者たちへ
【長野】 最後に、今まさに壁にぶつかりながらも日々戦っている経営者や、これから起業を目指す若者たちへ、大久保社長なりのメッセージをお願いできますか。
【大久保さん】 一番伝えたいのは「人と同じことをするな」ということです。今の時代、「これが儲かるらしいぞ」と聞いてみんなが一斉に参入するようなビジネスは、すぐに終わります。
【長野】 あえて人が嫌がる、面倒な道を行けと。
【大久保さん】 そうです。しんどい道を選べば、当然トラブルも起きるし、苦しい思いもします。でも、「しんどい時は、自分が成長している時」なんです。
【長野】 ボクシングでも、息が上がって足が止まりそうな時こそ、一番スタミナがつく瞬間です。
【大久保さん】 まさにそれです。だから、一撃でアウトになるような致命傷(取り返しのつかない借金など)以外は、すべてかすり傷だと思って、どんどん失敗してチャレンジしてほしいですね。失敗を恐れて現状維持に逃げ込むくらいなら、傷だらけになっても自分の信じた道を進んでほしいと思います。
【長野】 現状に満足せず、常に泥臭く前へ出続ける大久保社長の姿勢に、私自身も強く背中を押されました。本日は熱いお話を本当にありがとうございました。
編集後記
「しんどい時は成長している時」。システムトラブルによる数百万の損失を語る大久保社長の表情には、悲壮感は一切なく、むしろ目の前の壁を楽しむような力強い熱があった。
私自身、プロボクサーとしてリングに上がっていた20代前半、強烈なパンチを浴びて足がすくむ瞬間を何度も経験した。そこからもう一歩、相手の懐に踏み込めるかどうかで勝敗は決まる。大久保社長は経営というリングの上で、誰よりも面倒な課題に向き合い、重いパンチ(リスク)を受けながらも、決して足をとめることなく前進し続けてきた。
「楽な稼ぎ」を手放し、社会にとって不可欠なインフラを泥臭く構築し続けるその背中は、効率や見栄ばかりに囚われがちな我々に「商売の本当の強さとは何か」を問いかけている。人と違う道を恐れず、傷だらけになりながらも挑戦を続ける全ての戦う経営者に、この熱が届くことを願う。
プロフィール
【ゲスト:大久保裕史】 株式会社ワサビ 代表取締役。22歳で起業し、携帯ショップや飲食店など多岐にわたる事業を経験。その後、前職での役員経験を経て独立。リユース業界向けの在庫連動システムを開発し、複雑な仕様にも泥臭く対応することで流通業界トップ層の圧倒的シェアを獲得。「世界一の流通支援企業」を見据え、ミャンマーやベトナムなどグローバル展開も精力的に進める。社会に必要とされるビジネスを追求し続けるシリアルアントレプレナー。
【インタビュアー:長野憲次】 株式会社アスリート式 代表取締役CEO。元プロボクサー。「戦う経営者図鑑」を通じて、リーダーたちの真の魅力を社会に発信し続けている。



コメント